シェイクスピアとシルク

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シェイクスピアは若いころ、俳優だったんだそうですね。たとえばベン・ジョンソン作の『十人十色』にも、役者として出ているんだとか。役者の一方で、その後、脚本を書くようになったのでしょう。
シェイクスピア作の演劇によく出ていた役者に、リチャード・バーベッジが。というよりも、シェイクスピアのほうでもはじめから、リチャード・バーベッジが演じるものとして、物語を書くことさえあったという。
リチャード・バーベッジはたしかに名優であったとも。ひとつの例として、『リチャード三世』。この中でリチャード・バーベッジは、リチャード三世に。リチャード三世が怒りを抑えようと、唇を噛みしめる仕草。それは、リチャード・バーベッジの工夫だったそうですね。
『リチャード三世』は名演だったし、また当時の人に好評でもあったらしい。
ある時、『リチャード三世』を観た裕福で、高貴なマダムがリチャード・バーベッジの演技に、感嘆。そして芝居の終わった後、そっとリチャード・バーベッジに囁く。
「後で、わたくしの屋敷に来てね。門番には、「リチャード三世が来た」、そう言って下さい。」
これをたまたま陰で聴いてしまったのが、シェイクスピア。シェイクスピアは、リチャード・バーベッジの先回りを。
屋敷の前に立って、「リチャード三世が来た」と。マダムはシェイクスピアを入れて、山海の珍味を。いたれりつくせりのもてなしを。
そこにリチャード・バーベッジあらわれて、「リチャード三世が来た」。その時、シェイクスピアは門番に、ひと言。
「ウイリアム征服王の方がリチャード三世よりも先だった」と、言え。
まあ、たしかに英国史ではそうなってはいるんですが。それはともかく、シェイクスピアが才気煥発の人物であったことは、間違いないようですね。
実はこの話は有名で。同時代の日記作家、ジョン・マニンガムの『日記』に出ているんだとか。
シェイクスピアの話が出てくる小説に、『鳴海仙吉』が。伊藤整が、昭和二十五年に発表した物語。

「あのリチャードはシェイクスピアが描いたあらゆる王の中で、作者によって……」

ここからえんえんと、シェイクスピアが語られるんですが。また、こんな描写も。

「この間、小樽のある商人のところで、絹絲をホオムスパン風に織った洋服地見たが、一着分六ヤアルで三千円といふ……」

たぶん、シルク・トゥイードの一種なんでしょう。
シルク・トゥイードを羽織って。シェイクスピア劇を観たいものですが……。

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