傘とメルトン

Share on FacebookTweet about this on TwitterShare on Google+Email this to someone

傘で有名なのに、フォックスがありますよね。Fox。
「フォックス」をはじめたのは、サミュエル・フォックスという人なんだそうです。サミュエル・フォックスは、英国のワイヤー製造業者。平たく言いますと、針金屋でしょうか。針金ですから、いろんな使い途があった。
ウールを梳く時の櫛にも、フォックスの針金が使われたという。それから当時のことですから、クリノリンの内張りにも。クリノリンは女の人のドレスを拡げておくための道具ですよね。
サミュエル・フォックスが、そうだ傘の骨にも使えるのではないか。そう思ったのが、1840年代もこと。もっとも中空の針金を骨に使う方法はフランスにもあった。たとえば、リヨンの、ピエール・デューシャンという人が、それを傘に使っています。
でも、フォックスが発明したのが、「U字鋼」。中空鋼を半分に切った形と言えば良いでしょうか。それは軽くて、強い骨だったのです。U字鋼の骨は、1853年に特許を得ています。6月4日のこと。
フォックスはフォックスでも、フォックス・ハンティング。狐狩り。狐は田畑を荒らすことがあって。これを退治するのは、貴族の仕事だったんですね。
このフォックス・ハンティングのメッカが、メルトン・モーブレーだった。英国、レスター州の地名。
ここには貴族の集まるハンティング・クラブ「メルトニアンズ」があった靴磨きの「メルトニアン」も、これと関係があるのでしょうね。
そしてもちろん、緻密で、厚いメルトン地も、この地名から出たものなのです。

「男は肉付きのよい特徴的な顔でホンブルグ帽をかぶり、打ち合わせがダブルになったダークブルーのメルトンのコートを着て、胸ポケットにはハンカチチーフをのぞかせている。」

これは暗黒街のボス、ジャック・アーミンの姿。
ジャック・ヒギンズ著『死にゆく者への祈り』の一節。1973年に発表された物語。
メルトンのコートには、ハンカチ。雨か雪なら、傘を。まあ、そんなことなんでしょう。

Share on FacebookTweet about this on TwitterShare on Google+Email this to someone