義武というお方がいたんだそうですね。三浦義武。
三浦義武は、明治三十二年に今の島根県、浜田に生まれています。
若いころ、上京して早稲田大学に。そして東京で出会ったのが、コーヒー。以来、コーヒー一筋の人生を歩んだ人でもあります。
昭和二十五年には、浜田市、紺屋町に「ヨシタケコーヒー店」を開いています。たちまちヨシタケコーヒーのファンが。遠く離れた土地の人にもヨシタケコーヒーを味わってもらうために、缶コーヒーを。昭和三十八年のことです。
ヨシタケコーヒーの味の虜になったひとりに、作家の小島政二郎が。小島政二郎は『香りの記憶』のなかに、こんなふうに書いています。
「三浦君はコーヒーの話しかしない。コーヒーメニアだ ( 原文のママ ) 。だから、三浦君が入れるコーヒーはい日本一うまい。」
また、こんなふうにも書いています。
「「コロンビア?」 「ボゴタや」 」
三浦義武はコーヒー豆を見て、その産地をぴたりと当てた。百発百中。コロンビアが出てくるミステリに、『騙し屋』が。フレデリック・フォーサイスが、1991年に発表した物語。
この中に。
「ディータ・アウストは朝一番のコロンビア・コーヒーをじっくりと賞味した。」
また、こんな描写も出てきます。
「委員長席にすわったのは、副長官のティモシー・エドワードで、ブレイズで仕立てたダーク・スーツにカレッジタイという格好で……」
「ブレイズ」 Blads は昔、ロンドンにあったテイラー。スーツに命をかけたルパート・リセット・グリーンの店でした。
ブレイズも、義武も、古い話ではありますが……。