珈琲は美味しいものですよね。そしてまた珈琲はミステリにもつきものです。
探偵といっても人間なんですから、そりゃあ珈琲も、飲むでしょう。
「今日はこれで八杯目のコーヒーだ………」。
なんて科白が出てきたりします。たいていは出先で飲むコーヒー、煩いことばかりは言っていられません。アメリカのミステリに登場する私立探偵は、そうそう美味いコーヒーばかりでもないようです。ただ、れいもん・チャンドラー描くところの、フィリップ・マーロウは少し違うらしい。マーロウの自宅に刑事がやって来て。
「珈琲を淹れるのが、上手いらしいなあ………」。
なんてことを言ったりもするので。
さて、これがイギリスにいきますと、紅茶に。ホームズも紅茶がお好きだったようですね。アガサ・クリスティーに登場するエルキュール・ポアロは、チョコレート派。つまりココアがお好き。
しかし英国の探偵で、珈琲に特別に煩いのが、ウイムジー。ドロシー・L・セイヤーズが生んだ貴族探偵の、ピーター・ウイムジー。そのために執事のバンターは、珈琲を淹れるのにたけているとの、設定になっています。
ドロシー・L・セイヤーズ著『ピーター卿の事件簿』を読んでいると。
「わたしたちの部隊はその年の九月に、北フランスのカンブレーから出撃を開始しましたが…………」。
これは第一次大戦中の話なんですね。カンブレーは当時の激戦地。カンブレー Cambrai と書きます。この北フランスのカンブレーこそ、「シャンブレー」chambrayの故郷なのです。
その昔、カンブレーで織られていた麻風のコットンがアメリカにもたらされて、「シャンブレー chambray となったもの。さらにアメリカから、イギリスへと伝えられています。
1937年に、ジョン・スタインベックの書いた『赤い子馬』。この中に。
「棒縞の青い木綿のワイシャツと………」。
とあります。が、これは原文では、「シャンブレー・シャツ………」となっています。1937年のアメリカでのシャンブレーは、すでに親しい生地となっていたのでしょうね。
肌ざわりの良いシャンブレーで、美味しい珈琲を飲みたいものですが。