フライド・エッグは、卵焼きのことですよね。朝食には卵焼きという人は、少なくでしょう。
これが「フライド・エッグス」になると、目玉焼き。要するに卵がひとつなのか、ふたつなのか。では卵がみっつならどうなるのか。まさか「三つ目小僧」ではないでしょうが。
フライパンを温めて、卵を割り入れる。新型フライパンならたぶん油を引くこともないでしょう。後はほんの少しの水分を加えて、蓋をするだけ。もし、この時に昨日のワインの残りでもあれば、それを水分代わりにも。
卵焼きであろうと目玉焼きであろうと、実に簡単。難しいのは、どうやって食べるのか。考えはじめると、フォークが止まってしまうます。
卵焼きの難しさをひと口にいえば。結局のところ、黄身をいつ、どんな風に崩すのか。男たちは今朝も心の奥深くで、葛藤しているのであります。つまり、黄身をはやくに崩すほど、男らしい。黄身の姿を最後までのこしておくのは、女々しい。女々しいと思われても良いのか、それとも男らしいと思ってもらいたいのか。悩みますねえ。
アメリカには「サニーサイドアップ」の言い方があります。日本人には「目」に思えるものを、アメリカ人は「太陽」に喩える。太陽が白い雲の上輝いているから、サニーサイドアップなんでしょうね。
ところが、サニーサイドアップから一度返して、両面をさっと焼くのを、「オーヴァー・イージー」と呼ぶんだそうです。アメリカ人は目玉焼きの方法に煩くて、実にいろんな方法がある
ります。要するにそれは、黄身の状態をどうするのかと、関係しているのですが。
「オーヴァー・イージー」が出てくるミステリに、『ビッグ・タウン』があります。1994年に、ダグ・J・スワンソンが発表した物語。
「オーバー・イージーの卵 をふたつにハッシュ・ブラウンをとる。」
これはあるダイナーでの食事。探偵役の、ジャック・フリッポの様子。また、こんな描写も。
「ホック式のボタンがついた青いウエスタン・シャツに白いジーンズを身につけ…………」。
これはある会社の社長、パディ・ジョージ・ジュニアの着こなし。どうして社長がカウボーイのような恰好なのか。この物語の背景は、テキサス州のダラス。ダラスは今なお、カウボーイ・スタイルは珍しくはないようですね。