ビッグ・ビッグは、言うまでもなくロンドン名所のひとつですよね。
昭和二十八年に、偶然、ビッグ・ベンを見上げたお方がいます。作家の、
獅子文六。獅子文六は昭和二十八年に、ロンドンへ。どうしてロンドンへ行ったのか。
エリザベス女王戴冠式を取材するために。
「議事堂の付近へ散歩に出たら、有名なビッグベンの時計台に人が登っているのである。百メートル余の高い塔の上に、時計があるのだが、二人の人夫がセッセと文字盤を拭いている。」
男たちは時計の針より小さく見えたと、書いています。ビッグ・ベンの時計の分針の長さ、⒋2m。時針の長さ、⒉7m。人が小さく見えるのも、当然ですね。
あの時計の完成自体は、1854年。実際に時を刻みはじめたのが、1859年5月31日から。時計の振り子の長さ、⒊9m。
当時、時計の調整は、ペニー銅貨で行った。振り子の上に小さな台があって。ここにペニー銅貨一枚載せると、24時間に、0、4秒進む週に二回、そうやって微調整をしたんだそうですね。
ビッグ・ベンが出てくるミステリに、『殺す手紙』があります。ポール・アルテが、1992年に発表した物語。
ポール・アルテはれっきとしたフランス人なのですが。物語の主人公は、元英国情報部員に、ラルフ・コンロイとなっています。『殺す手紙』の舞台ももちろん、ロンドン。
「地下鉄のウエストミンスター駅を出たとき、ビッグベンが九時を打った。」
また、『殺す手紙』には、こんな描写も。
「黒いズボンに赤いビロードのジャケット。シガレットフォルダーを口にくわえ、長い銀髪をオールバックにしている。」
これは、アーサー・ワード卿の自宅での着こなし。たぶん、スモーキング ・ジャケットなんでしょう。
ビロードの上着で、ビッグ・ベンの音色を聴きに行きたいものですね。