ジョッキはわりあいよく使いますよね。ほら、ビールを飲む時なんかに、ジョッキを片手にするではありませんか。
ジョッキはまことに重宝な器でもあって。たとえば、少しひびの入ったジョッキなら、机の隅に置いて、筆立てに。あるいはひびが入っていないのなら、花壜代わりにも。
「食堂 == ミュンヘン國立ビール試飲場の陶製ジョッキーに石楠花、すかし百合……………………。」
岡本かの子の随筆『見在西洋』には、そのように出ています。岡本かの子は、「ジョッキー」とお書きになっておりますので、原文通りに。
岡本かの子は、昭和四年にヨオロッパを歴訪しています。もちろん一平も太郎もいっしょでありました。
12月7日。神戸港から、「箱根丸」で発っています。
もちろんフランスにも。巴里では家を二軒借りて住んでもいるようですね。『見在西洋』には、ロンポアンでの見聞も出ています。昭和のはじめ頃の、巴里、ロンポアンにはサンドウイッチ売りがいたのだと。そのサンドウイッチの種類が、ソオモン、キャヴィア、アンチョビ………………など。ずいぶんと豪勢なサンドウイッチがあったようです。
いや、たしかジョッキの話をしていたような記憶が。
ジョッキが出てくる小説に、『タラス・ブーリバ』があります。1835年に、ロシアのゴーゴリが発表した物語。
「途方もなく大きなジョッキをさし出して、押し寄せる連中に片っぱしから無料でふるまってやった。」
「途方もなく大きなジョッキ」で、何を飲むのか。「ガレールカ」。これウオトカに似たスピリッツ。ガレールカを、ジョッキで。私なら、卒倒間違いなし。
また、『タラス・ブーリバ』には、こんな描写も。
「銀でふちどりした底金を打った赤いモロッコ革の長靴をはき、黒海ほどの広さのシャロワールイには襞や折り目が一千本もついていて黄金の撚り紐のバンドで固く緊められ………………。」
これはある「宗教学校生徒」の姿。「シャロワールイ」は、いわゆる「コサックズボン」のこと。
「黒海ほどの広さ」とか、「折り目が一千本」というのは、少し大げさかも知れませんが。
でも、時には、シャロワールイを穿いて、ジョッキでビールを飲んでみたいものですが。