ドーナツは、美味しいものですね。ただ、すこし後を引くものですが。
ドーナツがお好きだったお方に、永井龍男がいます。
「中にカステラやワッフルやドーナッツ……………………。」
永井龍男の随筆『手袋のかたっぽ』にそのように出ています。永井龍男がまだ学生の頃の想い出ですから、たぶん大正時代なのでしょう。
牛乳が、五銭、トーストが、五銭。菓子などが、三銭だったと書いています。この菓子を手で割って、牛乳に浸して、食べる。
「なんとも云えぬうまさでね。」
と、書いたいます。これは当時あった「ミルクホール」での話。
村上春樹もドーナツを食べた。村上春樹著『村上ラヂオ』には、そのように書いています。
村上春樹は、ボストンの「タフツ大学」に客員教授としていた時に。「フォルクスワーゲン・コラード」の中で、食べたと。車の床にはドーナツの粉が落ちていたとか。
村上春樹の説によれば、ドーナツは1847年に、メイン州のキャムデンで生まれたんだそうです。ハンソン・グレゴリーという名の15歳の少年が思いついた、と。
ドーナツが出てくるミステリに、『氷のような手』があります。E・S・ガードナーが、1962年に発表した物語。
「すぐそこにドーナツのうまい店があるんだ。チョコレートのころもがついたやつと………………………」。
これは私立探偵の、ポール・ドレイクの科白。また、『氷のような手』には、こんな描写も。
「名前はドウ・ボーイ、今日の午後の第三レース」
これは依頼人の、オードリー・ビックネルの言葉。競争馬の名前が、「ドウ・ボーイ」。
ドウボーイ d o ugh b oy は「歩兵」のこと。ただし、アメリカで生まれ、アメリカで育った言葉。
ファッション用語としては、「ドウボーイ・ジャケット」があります。立襟の、身体にフィットした上着。第一大戦中、ヨオロッパ戦線で、アメリカ歩兵の着た軍服。ボタンが大きく、丸くて、当時の揚げだんごに似ていたので、その名前があります。
なにか立襟の上着を着て、ドーナツを食べに行きましょうか。