朝めしは、愉しいものですよね。朝めし。または、朝ごはんとも。
「朝めし」と「朝ごはん」は、なにがどう違うのか。あるいは、違わないのか。
さらには、「朝食」とも。「朝めし」は、室町時代から使われていたそうですから、古い。もっと前には、「朝餉」でしょうか。
要するに、「朝食」のほうが新しい言い方なのかも知れませんね。私は勝手に、「朝めし」はもともと男言葉。「朝ごはん」は女言葉。なんか、そんなふうな気持がしているのですが。
でも、女の人の「朝めし」もあって。我が愛する向田邦子に、『海苔と卵と朝めし』の、名随筆があります。
「おみおつけでまず一膳のごはんを食べ、生卵か海苔、納豆は二膳目でないと箸をつけてはいけないというのである。」
そんなふうに書いています。これは向田邦子が子どもの頃の、向田家の習慣であり教育でもあったのでしょう。では、その海苔は、どうだったのか。
「朝、顔を洗って八畳の茶の間に入ってゆくと祖母が、節の高くなった手で、海苔を二枚合わせ、長火鉢の上で丹念に火取っていた。」
うーん、名文ですね。ところで、どうして「二枚」なのか。海苔は片面だけ火取るのが佳いよされていたから。「火取る」と書いて、「ひどる」と訓みます。炙るよりずっと古風な、ずっと雅びな言葉。今や半ば廃語なのでしょうか。
では、1940年ころの英國の朝めしはどうだったのか。
「それから朝食。英国水兵たちの好物、ベーコンエッグだ。」
ダグラス・リーマンが、1994年に書いた『落日の香港』には、そのように出てきます。時代背景は、1940年ころに置かれています。また、『落日の香港』には、こんな描写も出てきます。
「着なれない白い軍服の裾を引っぱった。この“ アイスクリーム・スーツ” を着たのは、地中海以来はじめてだった。」
これは英国、駆逐艦の艦長、エズモンド・ブルックの様子。「アイスクリーム・スーツ」の言い方があるんですね。
なにか白いスーツで、朝めしを食べに行きたくなってきましたが。