カレーシュは、馬車のひとつですよね。エルメスの香水にも、「カレーシュ」があります。旧き佳き時代の、優雅な薫りを伝えるという意味なのでしょう。
今は便利な時代で、馬車の代りに自動車が活躍しています。でも、1920年代までは、洋の東西を問わず、馬車が移動手段の主役だったものです。
カレーシュはやや大型の馬車で、二例の座席がともに前に向いている形。これに対して「ランドー型」は、座席がたがいに向かい合った様式だったのです。
画家、東山魁夷の随筆集に、『馬車よ、ゆっくり走れ』があります。これは東山魁夷が1960年代にヨオロッパを旅した記録にもなっています。
「二、三台のタクシーは、それが馬車であったほうが似つかわしいと思われるほど、ひっそりと人待ち顔に並んでいた。」
これは、ドイツのリューベックの駅での様子。ヨオロッパには、今も馬車を走らせている町が少なくありません。もちろん、観光用ではありますが。
東山魁夷は、当然のようにケルンにも、よっています。
「この街の名物である「ケルンの水」が店頭によく、飾られているのが目立つ。」
ケルンの目抜き通り、ホーホシュトラーセは、メイン・ストーリートであり、歩行者だけの道になっているそうです。
また、インスブルックでは、民族衣裳にも惹かれています。
「妻は、バイエルン地方を旅行していた頃からディルンドルが気に入って、ぜひ、買って帰るのだといっていた。」
ディルンドルは、ハイ・ウエイストで、裾の拡がった民族衣裳。日本では、「ダーンドル」とも呼んでいるようですが。東山魁夷も奥様から勧められたものの、革の半ズボンはついに買わなかったと、書いています。
ところで、カレーシュが出てくる小説に、『獲物の分け前』があります。フランスの、エミール・ゾラが、1870年代に書いた物語。
「ルネは、動きはじめたカレーシュの軽い揺れに身をまかせ、鼻眼鏡をぱたりと落とすと………………」。
また、『獲物の分け前』には、こんな描写も出てきます。
「上品ぶって黄色い手袋をはめた大柄なのっぺり美男子の………………。
手袋は、フランスでは「ガン」ですが、どうしてここに「黄色い手袋」として、描かれているのか。
当時の巴里では、黄色いガンが大流行だったから。洒落者の象徴でもあったのです。
せめてお気に入りのガンで、カレーシュの夢でも見るとしましょうか。