アランビックとアーミン

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アランビックは、蒸溜機のことですよね。この蒸溜機があるからこそ、蒸溜酒が造れるわけであります。
むかしの日本ではアランビックを短くして、「蘭引」と呼んだんだそうです。

「蒸露罐にて燒酎又は花の露など取るも、蒸發氣の水に返る理に基きたるものなり。」

福澤諭吉が、慶應四年に著した『訓蒙窮理圖解』には、そのように紹介されています。福澤諭吉は蘭引を、「蒸露罐」と書いているのですが。
蘭引を使うと、ブランデーが生まれます。また香水も蘭引の原理から生まれます。少し乱暴に申しますと、ブランデーは葡萄の香水を飲むのに似ているかも知れませんね。
ブランデーがお好きだったのが、高見 順。高見 順は昭和三十三年に巴里を訪れて、当然のようにブランデーを堪能されています。

「シャンゼへ行き、またコニャックをのむ。」

昭和三十三十三年、五月二十三日の『パリ日記』には、そのように書いています。「またコニャック」。これはほんの一例なのですが。高見 順がブランデーをお好きだったのは、まず間違いないでしょう。
アランビックが出てくる小説に、『墓地展望亭』があります。1939年に、久生十蘭が発表した短篇。

「たとえば、アランビックの中で調合された媚薬の香とでもいったような、言いあらわしようもないふくよかな香気で…………………。」

これは主人公が、「墓地展望亭」に入った瞬間に感じる匂いの説明。
久生十蘭は、1929年から1933年まで、巴里に遊学していますから、実体験に基ずく創作なのでしょう。これは、「女」と名乗る少女からの匂いだったのですが。

「少女は、いままでエルミンのケープの下に隠していた、美しい小さな手を抜き出すと……………………。」

ここでの「エルミン」は、アーミンのことかと思われます。アーミンは国王の戴冠式にも用いられる、ことに高貴な毛皮のことです。ことに、ホワイト・アーミンが貴重とされます。
アーミンもミンクも持っておりません。でも、アランビックから生まれる蒸溜酒は決して嫌いではありません。

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