ヴェールは、女の人の被り物ですよね。ヴェールは、なんとはなしに男心を惹くなにかがあります。
専門用語では、「半隠蔽」。半ば隠され、半ばあらわされている状態が、もっとも美しく感じる瞬間なんだとか。
今でも、ウエディング・ヴェールがあります。英語なら、ウェディング・ヴェール。フランス語なら、「コワフュール・ド・マリエ」。結婚式の髪飾りと、理解するのでしょう。
ひと時代前の、コワフュール・ド・マリエには、オレンジの花の刺繍をあしらったものです。これはオレンジの木の下でも求婚がもっとも願いが叶うと、信じられていたからでしょう。
ヴェールが出てくるミステリに、『ロシアから愛をこめて』
があります。1967年に、イアン・フレミングが発表した物語。もっとも今では、映画のほうが有名ですが。でも、映画は、映画。原作は原作。この二つは、まったく同じものでもありません。原作の『ロシアから愛をこめて』を、映画化したのが、同名の『ロシアから愛をこめて』。まあ、あたり前のことではありますが。私は読物としては、原作のほうが、好き。いや、「愛をこめて」読んでいます。
「彼がまっさきにに感じたことは、その黒ヴェールの目が粗すぎるということだった。」
「彼」がジェイムズ・ボンドであるのは、いうまでもありません。ヴェールをかけているのは、ロシアの美女、タチアナ・ロマノーヴァという設定になっています。
また、原作の『ロシアから愛をこめて』には、こんな描写も。
「薄黄のヴィエラの夏シャツに、濃紺に赤のジグザグ模様のはいった英国工兵のネクタイをしめている。」
これはボンドが会った「ある男」の着こなし。
「ヴィエラ」は、たぶんヴァイエラ v iy ell a のことでしょう。もともとは英國の「ウイリアム・ホリンズ」社の、登録商標名。土地の古名、「ヴァイアジェラ」に因んでの、命名。
時にはヴァイエラのシャツを着て、ヴェールの似合う美女を探しに行きたいものですが。