首飾りは、ネックレスのことですよね。お美しい首をお持ち女性には、またとないアクセサリーであります。首飾りにももちろんピンからキリがありまして。
うんとお高いほうの首飾りで申しますと、160万リーヴル。フランスの、1780年代での、160万リーヴル。これは当時の貨幣価値で、金を一トンばかり買える値段だったそうです。
160万リーヴルの首飾りは、その頃、巴里の一流宝飾店だった、「ベーマー」が、150個のダイヤを使って、腕によりをかけた逸品。なぜなら、ルイ十五世の愛妾、マダム・デュ・バリーのために作った首飾りだったのです。ところが、ルイ十五逝去のために宙に浮いてしまった。
ここからはじまる空前絶後の詐欺が、歴史上有名な、「首飾り事件」なのであります。
「記録によるとカリオストロとラ・モット夫人とが共に食事した日から五日目の十二月十九日、一人の貴族の婦人が宝石商ベーマーの店を訪れ………………」。
遠藤周作著『王妃 マリー・アントワネット』に、そのように出ています。
では、遠藤周作は十二月十九日に、なにをしていたのか。1952年に。遠藤周作は、パリの病院に入っていた。
「夜、病室から巴里の灯をみるたびに私の目には泪がうかぶ。」
十二月十九日の『日記』に、そのように書いています。
首飾りの話が出てくるミステリに、『矢の家』が。1924年に、アルフレッド・メイソンが書いた物語。
「ヴェンヴェヌート・チェリーニ作の、黄金と玉髄と半透明の琺瑯でこしらえたペンダントだった。」
『矢の家』には、こんな描写も出てきます。
「中には目の覚めるような、緑のクレープデシンの服がはいっていた。」
もちろん、クレエプ・ド・シイヌのことでしょう。シルク・クレエプのことですね。
一度でいいから、クレエプ・ド・シイヌのシャツを着て。首飾りの似合いそうな女性を探しに行きたいものですが。