ブロンディとブレイザー

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ブロンディは、漫画ですよね。アメリカでもっとも有名な漫画と言っても、それほど大きな間違いではないでしょう。
原作は、チック・ヤング。1930年9月6日に、連載がはじまっています。ブロンディは奥さんの名前。たぶんブロンドのおぐしから来ているんでしょう。
このブロンディの旦那が、ダグウッド。正しくは、ダグウッド・バムステッド。このダグウッドが自分で作るサンドウイッチが、「ダグウッド・サンドウイッチ」。1936年の『ブロンディ』で誕生。
亭主が自分のために作るサンドウイッチですから、はちゃめちゃ。横腹を開いたパンの間に、ありとあらゆる食材を詰め込む。まあ、漫画ですからね。
一方、イギリスには簡素の極みみたいなサンドウイッチがあります。キューカンバー・サンドウイッチ。要するに、極薄の胡瓜えお挟んだ、小さなサンドウイッチ。
どうして、小さなサンドウイッチかというと。食事用ではなくて、お茶受け用。紅茶を飲む時に、ちょっと摘む。

「それに、生活の技術といえばな、ブラックネル伯母さんのために胡瓜サンド用意したかい。」

1895年に、オスカー・ワイルドが発表した『真面目が肝心』の一節。というよりも、この胡瓜のサンドウイッチから舞台の幕が開く。
余談ではありますが。『真面目が肝心』の初演は、1895年2月24日。「アレクサンダー劇場」で。この日の夜、倫敦にしても記録的な大吹雪。でも、その夜の「アレクサンダー劇場」は、十重二十重の馬車で、身動きならなかったという。
でも、どうして胡瓜のサンドウイッチなのか。それは上流階級の家庭ですよと、観客に伝えるために。ごく簡単に言って、当時のキューカンバー・サンドウイッチは、上流階級の象徴でもあったから。
その時代の倫敦での胡瓜はお安くなかった。また、胡瓜のサンドウイッチの味を左右するのは、実はバター。良質のバターを常に保存しておける家庭の意味でもあったのですね。
ところで、ブロンディが出てくる小説に、『アメリカひじき』があります。野坂昭如が昭和四十三年に発表した物語。野坂昭如はこれらによって、直木賞を受けてもいます。名文。というよりも、江戸期の黄表紙の戯文を、現代に蘇らせた功績は大いに認められるべきでしょう。

「アメリカでは夫妻で外出する時、子供は留守番のならわし、たしかブロンディの漫画ではそうだったと、俊夫ふと恥かしい。」

このあたりの文体にも、江戸の香りを感じることでしょう。
野坂昭如著『アメリカひじき』には、こんな描写も

「ハイ、ヒギンズさん」京子が金切声でさけんで、みると紺のブレザーコートグレイのズボン………………」

もちろんイギリス系アメリカ人、ヒギンズの着こなし。ごらんの通り、「ブレザーコート」と書いてあります。
もしかすれば。野坂昭如も、お読みになったのでしょうか。田中英光著の『オリムポスの果實』を。発表は、1940年。『オリムポスの果實』には、「ブレザーコート」と、何度も出てきますので。
なにか、好みのブレイザー で、私のブロンディを探しに行くとしましょうか。

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