ネとネック・クロス

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ネは、鼻のことですよね。n ez と書いて、「ネ」と訓みます。これにムッシュウを添えますと、「ムッシュウ・ネ」。英語ならミスタ・ノーズ。調香師のことであります。
この世の中には、ざっと三千種ほどの匂いがあるんだとか。調香師の鼻にかかりますと、およそ三百種の匂いをたちどころに識別できるんだそうですね。
古い話ではありますが。ウビガン。H o ub ig ant と書いて、「ウビガン」となるんだそうです。ジャン・フランソワ・ウビガン。1752年頃のお生まれ。
1775年に、「コルベイユ・ド・フルール」という店を開いています。巴里の、フォーブルサントノーレに。ここは、手袋と香水の専門店。当時は、「手袋と香水」はほぼ一対の商品であったらしい。
この「ウビガン」の香水を贔屓にしたのが、マリイ・アントワネット。アントワネットが断頭台に立った時、馥郁として「ウビガン」の匂いが立ちのぼったという。
このジャン・フランソワ・ウビガンの跡を継いだムッシュウ・ネが、1880年に「ウビガン」に入社した、ポオル・パルケ。ポオルはすぐに「フジュール・ロワイヤル」を発表しています。また、1900年には、「パルファン・リデアル」を。
吉行淳之助が、昭和三十九年頃に書いた短篇に、『香水瓶』があります。この中に。

「わたしの使っている香水、覚えていてくださったのね」

という科白が出てきます。
物語の主人公が、昔の女に久しぶりに会いに行く場面。それは、「タブー」という香水。男はそれとは意識しないで、偶然に買ったまでのこと。それがたまたま、女の愛用の「タブー」だった、というのがひとつの語りになっています。
「男」はどうしてタブーを選んだのか。無意識下のうちの意識。なんて話になると、面白いのかも知れませんが。
ネがつく言葉に、「パンス・ネ」が。もちろん「鼻眼鏡」のこと。鼻眼鏡が出てくる小説に、『リトル・ドリット』があります。1857年に、英國の作家、ディケンズが発表した物語。

「バーナクル氏の令息はこちらを向きながら鼻眼鏡を片目に押しつけた。」

1850年代の英國でも、「パンス・ネ」は珍しいものではなかったようですね。また、『リトル・ドリット』には、こんな描写も。

「金色の刺々のある飾りのついた絹のチョッキ、当時大流行だった地味なネッカチーフは淡黄色の地に藤色の雉をあしらったもの。」

これはジョンという青年の着こなし。えんえんと説明は続くのですが。たぶん、「ネック・クロス」のことかと思われます。今なら、スカーフにも似ていたのでしょう。
なにか好みのスカーフを結んで、贈る香水を選びに行きましょうか。

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