ベエゼとベレー

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ベエゼは、口づけのことですね。英語なら、k iss でしょうか。
日本にも古くから口づけがなかったわけでもないらしい。口づけの前には、「口吸い」の言い方があったという。

うつくしき 花の下葉を 見るからに くちすいせんと 人やいふらん

1681年頃に出た『ト養狂歌集』に、そのように詠まれています。
1681年は、延宝九年のことですから、古いものですね。なんでも秀吉の手紙にも、「くちすい」の言葉が出ているそうですから。
では、「口づけ」はどうなのか。口づけ、もまた、江戸期から用いられていて。ただし、それは「口癖」の意味であったという。口づけがキスの意味に変ったのはやはり明治以降でしょう。

「詩人の優しき頬に交るがわる接吻して、安けく眠り給へと言ひいひ出て去けり。」

國木田獨歩が、明治二十九年に発表した『星』の一節に、そのように書いています。國木田獨歩は「接吻」の右脇に、「くちづけ」のルビを振っています。
英國の作家、ロアルド・ダールが、1959年に発表した短篇集の題が、『キス・キス』。ただし、「キス・キス」の短篇はありません。あくまでも「短篇集」の総題なのですが。

「ビリイは十七歳。まあたらしい濃紺のオーヴァーを着用し、まあたらしい茶色のフェルト帽をかぶり、まあたらしい茶色の背広を着て、実にすばらしい気分だった。」

ダールの『女主人』はこんなふうにはじまります。ところが………。
ダールは「奇妙な味」の小説の名手でもあって。とんでもない結末が待っているのですが。
キスが出てくる小説に、『牝猫』があります。フランスのコレットが、1933年に発表した物語。

「ふたりきりになったときキスしてやらなかったからだな。」

これはアランという青年が、戀人のカミーユに対して反省している場面。フランスなら、ベエゼでしょうか。
『牝猫』には、また、こんな描写も出てきます。

「小さなプルオーバーを着て、いまにもおちそうなニットのベレーを後頭にひっかけ……………。」

これは、カミーユの様子。
男であろうと、女であろう、「いまにもおちそうに」ベレーをかぶるのは、ちょっと粋なものです。
好みのベレーを頭に戴いて、ベエゼするべき女性を探しに行くとしましょうか。

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