洋行は、海外旅行のことですよね。今は、海外旅行。昔は、洋行。
日本は島国で、海外とはすなわち船で海を越えることだったので、「洋行」。今なら、
「空行」でしょうか。飛行機で空を飛ぶことが多いのですから。
「今日は島岡の洋子の送別会があるから、今学校から出掛けた所だが……………………。」
明治十九年に、坪内逍遥が発表した『當世書生氣質』にも、「洋行」と出ています。まあ、
明治語のひとつなんでしょう。
明治期の洋行は大ごとでありまして。送別会も当然のこと。家族とは、水盃で出発したという。
時代は大きく飛びますが。女優の田中絹代が、昭和二十五年に、アメリカの旅から帰国した時。羽田から銀座までオープン・カーで、パレードをしたんだそうですね。戦後にもまだ、
「洋行」の気分は遺っていたのでしょう。
明治四年に横濱を発ったのが、「岩倉使節団」。11月12日のことでありました。帰国は、明治六年のこと。約三年の海外視察であったのです。この時の記録は、久米邦武による
『米欧回覧実記』に、詳しく語られています。
この時の一行のひとりに、当時六歳だった津田梅子も含まれていたのは、よく知られているところでしょう。
久米邦武の『米欧回覧実記』の中に。
「先年南北の戦は黒人の軛をとくの論より、もつれて大戦争となり……………………。」
軛はむろん「くびき」と訓みます。もともとは、「頸木」とも書いたらしい。牛などを二頭並べて牛車を挽かせる時の、肩の添木のこと。ここから転じて、「束縛」の形容にも用いられたようですが。
軛を英語で申しますと、「ヨーク」 y ok e になるんだとか。服飾用語にも、「ヨーク」はあります。シャツやブラウスなどの、肩の切替部分のことを、「ヨーク」。もともとは、
「軛」の意味から来ているわけですね。
ヨークはなにもシャツに限ったことではなくて、ジーンズの腰部分にも、ヨークがあります。
1905年に出された『英國方言辞典』には、「ヨーク」y o k e の記載があります。さらに古くは、y ark とか y erk とも綴ったとのことです。
どなたか美しい曲線のヨークのある上着を仕立てて頂けませんでしょうか。