スウェードとスペクテイターズ・シューズ

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スウェードは、裏革のことですよね。裏革があって、表革があって。専門用語では時に、表革のことを、「ギンメン」と呼ぶことがあります。「銀面」の意味でしょうか。
スウェードには、「スウェード効果」というものがあります。スウェードの表面を指先でなぜると、表面の毳が倒れてゆく。これが、「スウェード効果」。また、本物のスウェードの証拠でもあります。
スウェード s ud e はもともとフランス語で、「スウェーデン」の意味から来ています。スウェーデンで鞣された手袋用の革素材が裏革だったので、その名称が一般化したものです。

「スエエドの黑い靴は、さう、裏口に廻してよ。」

川端康成が、昭和二十九年に発表した『東京の人』に、そんな一節が出てきます。これは「敬子」が、「弓子」に頼んでいる場面として。敬子の靴が、黒のスウェード製なのでしょう。
女の人の、黒のスウェード靴、いいものですよね。

「………家を出たさかえは、紺のスエドのハイ・ヒールで、古い町通りを、ゆつくり歩いた。」

川端康成が、昭和三十一年に書いた『女であることと』にも、そのように出てきます。
川端康成は『東京の人』では、「スエエド」と書き、『女であること』では、「スエド」と書いているのですが。
文字使いはともかく、川端康成はスウェード靴がお好きだったのではないでしょうか。

スウェードが出てくる小説に、『八月の日曜日』があります。フランスの作家、パトリック・モディアノが、1986年に発表した創作。

「………隣り合って座った彼らの位置は、ちょうど私たちの正面にあたり、男はスエードのブルゾンを着て……………。」

この背景は、ニースでの様子。ニースのカフェでたまたま会った男が「スエード」のブルゾンを着ていたわけですね。ニースでは「八月の日曜日」に、スウェードのブルゾンを羽織ることもあるのでしょう。
同じくパトリック・モディアノが、1978年に発表した小説に、『暗いブティック通り』があります。この中に。

「彼はしゃんと上体を立て、コンビの靴でほとんど爪先立ちしているくらいだ。」

これは写真に写っている男を眺めている場面として。『暗いブティック通り』には何度か、コンビの靴が出てくるのですが。
「コンビの靴」。もともとは、1920年代の、イギリスのスポーツ観戦用の靴だったものです。選手は白い靴を履くけれど、観戦者は「白の入った」靴を履く、というところからはじまっています。
ですから、正しくは「スペクテイターズ・シューズ」と呼ばれるのです。
どなたか白と黒とのスウェード靴を作って頂けませんでしょうか。

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