アイロンは、皺伸ばしですよね。iron と書いて、「アイロン」と訓みます。
でも、正しくは、「アイアン」。鉄は「アイアン」に決まっています。ゴルフのクラブの場合「アイアン」と呼んでいるではありませんか。
「アイロンの注意でもして遣るべき所を、彼女は又逆に行つた。」
「丁度好いやうですね」
夏目漱石が、大正五年に発表した小説『明暗』に、そのような一節が出てきます。
これは「お延」が、「小林」に対する返事として。
小林は外套を羽織っていて。背中の具合がどうかと、お延に問う。外套の背には大きな皺が。
お延はほんとうなら、アイロンでもかけなさいと注意すべきところ、いうに言えなかった場面。
まあ、実際問題、今でもこれに似たことは少なくないでしょうね。「アイロン」のひと言が言えない場合が。アイロンが出てくる小説に、『九月に』があります。1990年に、ロザムンド・ピルチャーが発表した長篇。物語の背景は、スコットランドに置かれているのですが。
「………熱いアイロンが、湿り気をおびた、ゴワゴワしたリネンの皺を伸ばし、清潔に、さわやかに、折り目正しく仕上げて行く過程を感心して見守っていた。」
これは「ヘンリー」がアイロンかけを手伝っている様子について。
また、『九月に』を読んでおりますと、こんな描写も出てきます。
「市松模様のストッキングとキルト、くすんだ暗緑色のジャケットには銀のボタンがついていた。」
これはスコットランド人の、エドマンド・エアドの着こなし。スコットランド人の、エドマンドがキルトを身に着けるのは、当然でしょう。
「市松模様」たしかに市松模様なのでしょうが、私は勝手にアーガイル柄を想像してしまいました。
柄としての「アーガイル」argyle は、1899年頃から用いられているんだそうです。
また、食器にも「アーガイル」があります。小型のポットのことを、「アーガイル」。料理にかけるソースを、温めるためのポットのことです。
アーガイル・ホーズは脚を温めてくれるのですが。
どなたか本式のアーガイル・ホーズを作って頂けませんでしょうか。