シャモアとシフォン

Share on FacebookTweet about this on TwitterShare on Google+Email this to someone

シャモアは、動物の名前ですよね。「アルプスカモシカ」の別名もあるんだとか。高山動物のひとつ。険しい岩場をかけ登る名人でもあります。
また、シャモアから採れる革が上質なのです。もちろん、「シャモア革」と呼ばれるものであります。そして、シャモア革の別名が、「セーム革」。
故き佳き時代の写真家は、シャモア革でレンズの手入れをしたものです。レンズを拭くだけでなく、写真機を護るために、シャモア革で包んでおいたりしたものであります。
ひと時代前の洗車には、セーム革が欠かせないものでありました。洗車後の水の拭き取りには、セーム革が最適だったのです。けっして車体を傷つけることがなかったので。

セーム革が出てくる小説に、『オリンポスの果実』があります。田中英光が、昭和十五年に発表した物語。
これは1932年のロサンジェルス・オリンピックが背景となっています。田中英光は実際に、ボート競技の選手として、オリンピックに参加しているのです。

「ホノルル・ブロオドウェイの十仙店で、ぼくは紅のセエム革表紙のノオトを買いました。」

金額は50セントだったそうですが。この50セントが、田中英光にとってのはじめての買い物だった、とも。アメリカ通貨での。
また、田中英光の『オリンポスの果実』を読んでおりますと、こんな表現が出てきます。

「第一装のブレザァコオトに着更え、甲板に立っていると………」

田中英光はオリンピック選手のブレイザーのことを、「ブレザァコオト」と書いています。何度も、「ブレザァコオト」と。
後の時代によく「ブレザーコート」と表記される大元は、田中英光の『オリンポスの果実』にはじまっているのではないでしょうか。
これは監督が選手に言ったもので。監督は洋服屋から、「ブレザーコート」と聞かされたためでしょう。
それはともかく、『オリンポスの果実』を読む限り。当時のオリンピックの制服は、オーダーメイドだったようです。

シャモアが出てくるミステリに、『予期せぬ夜』があります。1940年に、エリザベス・デイリイが発表した物語。時代背景は、1939年におかれているのですが。

「………白い絹のマフラー、分厚い黄色のシャモアの手袋、パナマ帽に目をやった。」

これは「サム」という男の着こなしとして。
また、『予期せぬ夜』には、こんな描写も出てきます。

「………柔らかい花柄の衣裳に、ふんわりしたシフォンのスカーフ………」

たしかにシフォンのスカーフは珍しいものではありません。
「シフォン」chiffonは、半透明の薄絹。フランス語の「シフ」chiffe から出た言葉。その意味は、「薄い」であったという。
どなたかシフォンのシャツを仕立てて頂けませんでしょうか。

Share on FacebookTweet about this on TwitterShare on Google+Email this to someone