ビロードは、ヴェルヴェットのことですよね。フランスなら、「ヴェルール」velours でしょうか。
ヴェルヴェットがどうして「ビロード」なのか。
これはポルトガル語の「ヴェルード」velludo
から出た言葉ではないかと、考えられています。つまり英語のヴェルヴェットよりも古い時代なので、「ビロード」となったものでしょう。
これを日本語の漢字を宛てて、「天鵞絨」としたのは、ご存じの通り。
「天鵞絨一寸四方、緞子毛貫袋になる程」
井原西鶴の『日本永代蔵』に、そのような一節が出てきます。これは当時の呉服屋の店先での話として。江戸時代の生地は、一反が売り買いの単位。それを天鵞絨に限っては一寸四方でも売ります、ということなのです。一寸は、ざっと三センチ。つまり三センチ四方からでも買えたのでしょう。
これは実際には、その頃の「越後屋」を想定したもの。後の三井呉服店。今の「三越」のことです。
宝永元年に、三井高利が江戸、日本橋に、「越後屋」を開いています。
この三井高利の商法が、「現金掛け値なし」だったのです。当時は「つけ」が常識。それもすべて「言い値」。これを改めて、現金掛け値なし。つまり、長い時間をかけて値段交渉する必要がなくなったのですね。
ビロードが出てくる小説に『一粒の麦もし死なずば』があります。フランスの作家、アンドレ・ジイドの代表作。
「ビロードの背広でも着ることができたなら、僕は有頂天になってよろこんだはずだ。」
これは少年時代のジイドの想い出として。
また、『一粒の麦もし死なずば』には、こんな描写も出てきます。
「彼は、白と黒の細かい格子縞の、袖の短い上着を着ていた。」
これは、「ピエール・ルイス」という少年の着こなしとして。私はここから勝手に千鳥格子を想像してしまったのですが。
千鳥格子。フランスなら、「ピエ・ド・プル」pie de poule でしょうか。砂浜の、鳥の足跡というのでしょうか。
どなたかピエ・ド・プルの上着を仕立てて頂けませんでしょうか。