ペンキは、塗料のことですよね。ペイントのことであります。では、なぜ、ペイントをペンキと呼ぶのでしょうか。
日本語の「ペンキ」は、オランダ語の「ペック」pek から来ているんだそうです。
英語由来のペイントよりも古いので、今でも「ペンキ」が用いられているのでしょう。
「と彼は、ペイントのはげかかつた風呂場の壁に、大きな手で掌ポンプを作つて湯をはねかせながらそんな事を思つた。」
阿川弘之が、昭和四十年に発表した短篇『水の上の会話』に、そのような一節が出てきます。これは「三熊機関長」がひとりで風呂に入っている場面。「賀茂川丸」という船の中の風呂。それで、『水の上の会話』なのでしょう。
たしかに風呂とペンキは関係ありそうですね。銭湯の富士山の絵だとか。あの富士山の絵も一種のペンキではないでしょうか。
ペンキが出てくる紀行文に、『欧米の隅々』があります。1933年に、市河晴子が発表した旅の記録。
「………馬に青や赤の飾りをつけて、ペンキを塗りかえた荷車を引かせ、家内中がそれに乗り………」
これはロンドンの「バンクホリディ」の様子として。
市河晴子は、英文学者の市河三喜の奥様。
昭和六年に、市河三喜、洋行。この時に晴子も一緒に。八ヵ月で、二十九の国を回ったとのことです。
市河晴子の『欧米の隅々』には、こんな文章も出てきます。
「………今流行の白黒霜降りで、帽子から洋服は無論、靴も白黒の細い革で編んだサンダル風で固め上げ………」
これは巴里の街での見聞として。当時の巴里では、「ペッパー&ソルト」pepper and salt が流行っていたのでしょう。
現在のペッパー&ソルトは、古典柄のひとつでしょう。
どなたかペッパー&ソルトのスーツを仕立てて頂けませんでしょうか。