酒豪とシャークスキン

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酒豪は、酒に強い人のことですよね。飲んでも飲んでも、決して乱れない人のこと。酒に対しての豪傑なので、「酒豪」なのでしょうか。
酒豪が出てくる小説に、『大阪の宿』があります。水上瀧太郎が、大正十四年に書いた物語。

「三田君、君は酒豪なんだから、遠慮なく飲んでくれたまへ。」

これは支店長の言葉として。場所は大阪の新地。藝者が侍っている茶屋で。でも、「三田」はあまり飲まない。振る舞い酒はあまり美味しいとは感じられないので。
まあ、酒豪にもいろんな酒豪がいるのでしょうね。
作家で、酒豪でということになりますと、立原正秋でしょう。もちろん、立原正秋の小説や随筆などを横目で眺めての印象なのですが。

「仕方なく私はとなりの部屋で酒を飲みながら原稿を書き、二時間ほどして水をのみにおきてきた彼とまた飲み、しばらくして彼が睡ると私も独酌で原稿を書き、といった具合にして朝を迎えたことがあった。」

立原正秋は『秘すれば花』の中に、そのように書いています。つまり、夜を徹して酒を飲んでいたのでしょう。しかも、原稿を書きながら。
これはやはり作家で、友人の高井有一が、鎌倉の立原家に遊びに来た時の話として。ここに「彼」とあるのが、高井有一であるのは、いうまでもないでしょう。
これもまたなにかの随筆に書いていたことですが。立原正秋は、風呂に入る時、一升壜と一緒に。風呂から出る時、ちょうど良い燗酒になっているんだとか。
とにかく一升やニ升では酔ったことがないというのですから、酒豪という外ありません。
立原正秋はまた、料理がお得意でもあって。

「鶏のガラとか牛のばら肉、ラード、野菜では葱とかピーマン、にらなどを仕こんでくるのが常だった。」

作家の小川国夫は、『兄貴格』と題する随筆に、そのように書いてあります。これは立原正秋が、小川国夫の家に遊びに来た時の話。その日の夕食は、立原正秋が作るので、その買い出しに。
友達の台所で料理するくらいですから、自宅でも当然のように。
立原正秋の自宅から少し歩くと、海で。魚を仕入るのに不自由しなかったらしい。その魚を立原正秋は上手に捌いたそうですね。

「頭をおとし、わたをだし、さっと水洗いしてから骨をぬく。鰯は身がやわらかいから、骨はするっとぬける。これも生姜醤油で食べるが、浅葱をそえても良い。」

立原正秋は、『食べものの話』の中に、そのように書いています。立原正秋は鯵や鰯などもお好きだったらしい。
まあ、なにかとうるさいお方ですから、ご自分で料理してくれる分には、奥様も大助かりだったでしょうね。
立原正秋は『冷や奴の味』という随筆の中に。

「冷や酒に冷や奴、こんなにおいしいものはこの国いがいには見当ならないだろう。」

さて、この「冷や奴」、流水で冷やしたものに限るとも書いているのですね。

立原正秋が、昭和三十八年に発表した短篇に、『手』があります。この『手』の最後の一行は、このようなひと言に。

「やがて駅がみえ、構内の出入口に立っている白いシャークスキンを着た女をみた。悪くないと思った。」

「シャークスキン」sharkskin
は、生地の名前。表面に、美しい、細かい凹凸感のある布地。ふつう、夏物とされることが多いのですが。でも、女性限定の生地でもありません。
どなたか純白のシャークスキンでスーツを仕立てて頂けませんでしょうか。

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