羊羹は美味しいものですよね。
羊羹を少し遠まわしに言えば、「棹物」。羊羹はその形から、一棹、二棹と数えるからなんだそうです。
羊羹で有名なのが、虎屋。虎屋の羊羹で有名なのが、「夜の梅」。さて、食べようと切ります。切ると切口に粒小豆の姿が見える。その粒小豆の様子が、夜の梅に想えるんだそうです。細かいですね。
細かいといえば、羊羹は金気を嫌うとか。で、強く、細い糸で切ることがあるんだそうですが。
夏目漱石は『草枕』の中で羊羹を芸術品に喩えています。これもまた、細かい話。漱石と関係があるのかないのか。谷崎潤一郎は『陰翳礼讃』の中で。
「人はあの冷たく滑らかなものを口中にふくむ時、あたかも室内の暗黒が一箇の甘い塊となって舌の先で融けるのを感じ……」
と、はじまってえんえんと羊羹がいかに日本美であるかを、語っています。これも、繊細な話でしょう。
谷崎潤一郎が昭和三十五年に発表した小説が、『鍵』。昭和三十五年は1960年でもあって。1960年、フランスに生まれたのが、ブノワ・デュトゥルトル。ブノワ・デュトゥルトルが、2001年に発表したのが、『フランス紀行』。この中に。
「私は古いイヴ・サンローランのコスチュームに私の眼の色を際だたせる申し分のないグレーのワイシャツといった……」。
ということは「私」の眼の色、素晴らしいグレイなんでしょうね。
さて、なにかお気に入りのシャツを着て。美味しい羊羹を探しに行くとしましょう。