ボレロっていうの、ありますよね。チョッキのようで、チョッキではなくて。
要するに、前開きを留めるか留めないかで、決まるんでしょう。ボレロは前を留めないで着るし、チョッキは留めて着る。
ボレロはふつう女の人の服に多い。あるいは少女のボレロ姿も可愛いものです。しかし。スペインの闘牛士の服を見てください。たいていボレロ風になっているではありませんか。
だから、「ボレロは女の子向き」なんて決めつけないでくださいね。
ボレロ bolero は要するに、スペインの民族衣裳からはじまっているのでしょう。昔、スペインの地方に「ボレロ」という踊りがあった。踊りがあったからには、音楽もあったのでしょう。そのボレロを踊る時にふさわしい衣裳が、ボレロだった。私はそんなふうに考えているのですが。
このスペインの民族音楽を下敷きにした名曲が、『ボレロ』。もちろん、モーリス・ラヴェルですね。ラヴェルといえばボレロ、ボレロといえばラヴェル。それくらいによく知られている曲ですね。
そのモーリス・ラヴェルは1925年に発表したのが、『子供と呪文』。これは当時、モンテカルロで初演されています。
1925年に生まれたのが、辻 邦生。辻 邦生の小説に、『異国から』があって。この中に。
「たしかに彼は、もはや、そでに革でつぎをあてた………」。
という描写が出てきます。映画に出てスターになった、あるアメリカ青年を指して。これはたぶん、「エルボー・パッチ」のことでしょう。エルボー・パッチということは、トゥイード・ジャケットかも。トゥイード・ジャケットは長く着れば着るほど味わいが深くなる。ちょうどボルドー・ワインのように。
エルボー・パッチは、「こんなに長く着ましたよ」というサインでもあるのでしょう。