武士道ということが昔あったようですね。いや、今もなお「武士道精神」が健在であるのかどうか、私は知りませんが。
武士道とは何か。これを知る上での最良の書は、『武士道』であります。新渡戸稲造が、1899年12月、アメリカ、ペンシルヴァニア州、マルヴェルンで書いた、古典。
言うまでもありませんが、新渡戸稲造と書いて、「にとべ ・いなぞう」と訓みます。では、新渡戸稲造はどうして『武士道』を書いたのか。直接には、散歩したから。
1889年頃。新渡戸稲造はベルギーの学者、ド・ラヴレーの自宅に招かれて、ふたりで、散歩した。その時、ド・ラヴレーは新渡戸稲造に問うた。
「日本での宗教教育はどのようになされていますか?」。
新渡戸稲造は正直に、「日本での宗教教育はありません」と、答えた。ただ、これだけでの宗教は不充分だと考えて、一冊の本を書くべきだと考えたのです。
そのようなわけで、新渡戸稲造は『Bushido』と題して、英文で書いたのであります。外国のに読んでもらうために。もちろん今は日本語訳でも読めるのですが。
「武士にとって、卑劣な行動や不正な行為ほど忌むべきものはない。」
第三章の『義または正義』は、そのように書きはじめられています。
戦後、日本の作家でもっとも「武士道」に近いと考えられていた人に、三島由紀夫がいます。三島由紀夫が1950年に発表した小説に、『青の時代』があります。『青の時代』は、実際に起きた事件を、三島由紀夫が小説に仕上げたものです。実際の事件とは、当時東大生であった人物が起こした「光クラブ」のことなのですが。三島由紀夫自身も、『青の時代』が「光クラブ」の小説化であることを明言しています。この中に。
「片手サスペンダアにかけ、片手をあげて、ようと言つた。」
「サスペンダー」はアメリカ英語。イギリス英語では、「ブレイシーズ」。フランス語では、「ブレテル」bretelles と言います。
武士道にははるか及びませんが。せめてスリーピース・スーツにはブレテルを着けたいものですね。