ポートワインは、酒精強化ワインですよね。
ワインはふつう一度栓を開けたなら、保管が難しい。すぐに酸化してしまうから。でも、ポートワインなら、酸化することがない。一般のワインに較べてよほど扱いが楽なのですね。
ポートワインももちろん、ワインの一種。なんですが、途中でブランデーを加えて、熟成を止める。それで、酸化しない。
ポートワインはポルトガルの名産ですが、そのポルトガルよりも多く愛飲するのが、イギリス。ごくふつうのイギリスの家庭に一本のポートワインが無いというのは、珍しいでしょう。ポートワインもまた、赤があり白があります。白は食前に、赤は食後にふさわしいということになっています。
フランスでは、「ポルト」 port といえばポートワインのことです。つまりフランスにもポルトはあります。が、イギリスのように「ポートワインがなくてはお話にならない………」というほどではありません。もし、ポートワインを偏愛するようなら英国人とみてまず間違いないでしょう。
ポートワインが出てくる小説に、『オズワルド叔父さん』があります。ロアルド・ダールが、1979年に発表した傑作。「傑作」とは、読みはじめたら最後まで笑いが止まらないという意味でもあります。そしてロアルド・ダールが生粋の英国人であるのも、言うまでもありません。
「ポートワインを一杯どうだね、きみ」サー・チャールズがわたしに言った…………」。
「これはなかなか良いものなんだ。八七年のフォンセカ。」
貴族の家に招かれての、食後の席での会話。ここでの「八七年」とは、1887年のポートワインを指しています。はっきり申しますと、サー・チャールズは自慢しているわけですね。まあ、ことほど左様に英国人はポートワインについて語りたい人種なのでしょう。また、『オズワルド』には、こんな描写も出てきます。
「ホワイト・タイに燕尾服という完全礼装だった。当時の燕尾服は両方のテイルの内側に深いポケットがついていて…………」。
これはオズワルド叔父さんの思い出話。
燕尾服の表にはポケットを付けないもので、その代り隠しポケットを用意したものです。まさに「燕尾」の裏側にスリット・ポケットが添えられたのです。
まあ、ポケットにもいろんなのがあるわけで。ちょうどポートワインにもいろいろとあるように。