パーコレーターは、コーヒー器具のひとつですよね。コーヒー粉と水を入れておく二つの部屋があって、熱せられた湯が上に上って降りてくる。この湯が降りてくる時に抽出が行われるわけです。パーコレーターの特徴は、湯を上らせるのに、一本の管を用意したところでしょう。
コーヒーを飲む歴史は、すでに千年を超えています。が、その多くは「トルコ式」だったのですね。「煮出し法」。水の中にコーヒー豆を入れて、火をつける。沸いたところで、その上澄みを飲んだわけです。
これが大きく変わりはじめるのが、1800年頃の、フランス。フランスの、ドゥ・ベロイという人物が、今で言う「ドリップ」を考案。より正確にには、結果として「ドリップ」となるコーヒー器具を発明するのです。そのように考えると、「ドリップ式」にも少なくとも二百年の歴史があることになりますね。
パーコレーターが出てくる小説に、『ちびの聖者』があります。フランスの、ジョルジュ・シムノンが、1965年に発表した本格小説。ただし物語の背景は、十九世紀末から二十世紀のはじめにおかれているのですが。
シムノンは「メグレ物」で知られるミステリ作家でもありますが、それとは別の、本格小説も多く書いています。その本格小説の中でも特に評価の高いのが、『ちびの聖者』。ある人は「ちびの聖者」のモデルはピカソだろうと、考えているらしいのですが。
「主人は、パーコレーターの下に、二つのグラスを交互に置いた。」
これは、「レ・アール」近くのとあるカフェでの光景。当時の巴里のカフェでは、パーコレーターを使うことがあったのでしょう。
シムノンはさすがに、十九世紀末の、巴里の、レ・アールの雰囲気を活写しています。また『ちびの聖者』には、こんな描写も出てきます。
「サマリア人の店で、流行の三つ揃いのスーツを買ったのだ。白と黒の小さなチェックで、上着は短く、取り外しできるカラーで、蝶ネクタイである。」
「ちびの聖者」ことルイの、兄、ブラディミールの艶姿。
蝶ネクタイは、フランスでは「パピヨン」と呼ばれるんだとか。パピヨンを結んで、美味しい珈琲を淹れるとしましょうか。