ハンカチとハーフ・トラウザーズ

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ハンカチは、必需品ですよね。手を洗ったあと、それを拭くためにも。
ところで、「ハンカチ」なのか、「ハンケチ」なのか。「ハンケチ」はごく簡単に言って、明治語。英語のh andk erch i ef が、「ハンケチ」と耳に届いたのでしょう。
明治の人はこれに「手巾」の文字を宛てて。ふつう、「ハンケチ」と訓んだ。ハンケチを少し崩した下町言葉が、「ハンカチ」。今では「ハンケチ」を「ハンカチ」が凌駕した。そう言っても間違いではないでしょう。
手巾で、あまりにも有名なのが、『手巾』。芥川龍之介の短篇。もともとは、大正五年「中央公論」十一月号に発表されたものです。

「さうして、最後に、皺くちやになつた絹の手巾が、しなやかな指の間で、さながら微風にでもふかれてゐるやうに、繡のある縁を動かしてゐるのに氣がついた。」

ある先生のもとに婦人が訪れて。亡き生徒の母。息子を喪ったというのに、婦人は笑みさえ湛えて。ふと先生がテーブルの下の婦人の「手巾」を見ると。母は、手で泣いていたという物語であります。
芥川龍之介の「手巾」にはルビがふられてはいません。当然、「ハンケチ」と訓むに違いないと、考えていたからでしょう。
ハンカチが出てくる小説に、『紳士トリストラム・シャンディの生涯と意見』があります。

「うすい紗のハンカチを頭の上にヒョイとのせ………………。」

これは物語中の、ある老婦人のしぐさ。
この物語は、1760年頃の発表。著者は、ローレンス・スターン。奇書中の奇書であります。この中に。

「なあおまえ、あの子に半ズボンをはかせることを考えはじめていいと思うな。」

これは、夜。親子三人が息子をはさんで川の字に寝ている。寝ながらお父さんとお母さんとが話している場面。
たぶんこれは、ハーフ・トラウザーズのことなのでしょう。少年は必ずハーフ・トラウザーズと決まっていたものです。
さて、なにか好みのトラウザーズで、上等のハンカチを探しに行くとしましょうか。

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