ブック・エンドは、本立てのことですよね。たとえば、五、六冊の本を、机の上に立てて置く。そんな時には、重宝するものです。
五、六冊の本は、ただそれだけでは、安定が悪い。そこで、なにか、両端に支えになってくれるものがあると大いに助かる。それが、ブック・エンド。
本は「背」が命。背表紙が。並んでいる本を探す時の目安は、背表紙の題名で、見つけるわけですから。
ちょっと極端な言い方ですが。背表紙は想い出さえも運んでくることが。その本を読んだ頃の郷愁だとか。本そのものを読まなくても、むかし読んだ記憶がはっきりと立ちのぼってくることがあります。
本は、「背」が大事。そのためにも、ブック・エンドは有効なのでしょう。
ブック・エンドが出てくるミステリに、『凶悪の浜』があります。
ロス・マクドナルドが、1956年に発表した物語。
「デスクの上には、象の形をした石のブックエンドにはさまれて数冊の本が立ててある。」
これは、クラレンス・バセットという人物の部屋の様子。それを、私立探偵の、リュウ・アーチャーが眺めている場面なんですね。少なくとも1950年代のアメリカでは、ブック・エンドが珍しくはなかったのでしょう。
また、『凶悪の浜』には、こんな描写も出てきます。
「寝室にはいってみると、樫の衣類ダンスには英国製ブロードクロースの注文仕立てのワイシャツが何枚も重ねてあり、高価なネクタイ、カシミヤのスウェター、絹のスカーフ、しゃれた靴下などがぎっしりつまっている。」
これは、レーンス・レーナードという富豪の家。ある捜査のために、リュウ・アーチャーが調べている場面。このレーンス・レーナードの持物の描写、あまりにも長いので、割愛します。
レーンス・レーナードは、れっきとしたアメリカ人。でも、好みは、英国製。ここに、ひとつのアメリカの縮図があるように思われるのです。
裕かな、余裕ある人にとっては、「英国製」は地位の象徴なのであります。不思議なことではありますが。
ブロードクロスは、日本でいう「ブロード」のこと。ブロードクロスは読んで字のごとく、「幅広の生地」。意味の広い名称でもあります。が、コットンの場合には、シャツ地に最適だと、考えられています。たいていのシャツ地はブロードクロスである、と言ったもそれほど大きな間違いではないでしょう。
ブロードクロスはいうまでもなく、シャツ以外にも、多くの用途があります。また、大量生産に向く生地でもあるのです。
アメリカでの、最初のブロードクロスは、1772年に、フィラデルフィアで織られた、との説があります。
たまたま、ブック・エンドに支えられていた、『生地百科事典』に出ていた話なのですが。