インディゴ・ブルー(indigo blue)

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高貴なる青

インディゴ・ブルーは藍色のことである。狭い意味ではインド藍で染めた青を指す。青藍 (せいらん) とも。

インディゴ・ブルーは高貴な色であると同時に、身近な色でもある。たとえばブルー・ジーンズの色はまさにインディゴ・ブルー。昔は必ず「本藍」で染めたものだ。

一方、「ブルー・ブラッド」 blue blood の表現もある。青い血統とは直ちに「貴族階級」の意味になる。このことと関係があるのかないのか、英国のオックスフォード大学も、ケンブリッジ大学も、ブルーが象徴とされる。

ブルーは古代より空の色であり、海の色である。が、その青を色で染めると褪せやすい。褪せることのないブルーは稀少品だったのである。色の変わることのないブルー、それがインディゴだったのである。

日本にも「青は藍より出でて藍より青し」の表現がある。日本への藍は、第十六第、仁徳天皇の時代に、中国を経て伝えられたという。インド藍は日本のみならず、それよりはやくヨーロッパにも齎された。

「藍がヨーロッパに到来し、染料や絵画の材料として使われるようになったのは、古代ローマの博物学者プリニウスの時代であるようだ。」

ヨハン・ベックマン著 今井幹晴訳 『モノここに始まる』にはそのように説明されている。ただし原著は、1846年のドイツで刊行されている。

それはともかくインドからはるばるローマへ藍を伝えたのは、アラビア商人であった。インディゴ indigoの言葉自体は、ギリシア語の、「インディコン」 indikon から来ているという。フランスでは、「アンディゴ」 indigo 。これはラテン語の「インディクム」 indicum と関係があるらしい。いずれにしてもすべては「インド藍」からはじまっているのである。

インドからヨーロッパに運ばれた「インド藍」は最初、高貴薬とされた。それは黒い結晶であり、熱病や潰瘍に卓効ありとされたのである。

そしてその原料はインド山中の秘境にのみ産する宝石を砕いて粉にしたものと、信じられた。アラビア商人がその物語を創ったのか、それともアラビア商人もまたそう信じ込んでいたのか。

インド藍の正体は、草である。学術名は、「インディゴフェラ」 indigofera 。マメ科、コマツナギ科の植物。インディゴフェラがいつ、どのようにはじまったのかは定かではない。天地創造の時代から自生していたのかも知れない。

インディゴフェラのなかでも特に、「インディゴフェラ・ティンクトリア」や、「インディゴフェラ・スマトラナ」は最優秀品種とされる。それは端的に、「インディカン」の含有率が高いからである。このインディカンという物質によって、美しい、堅牢度の高い青が得られるのだから。

そのようなわけで長い間、インド藍は謎の「貴石」だと考えられていた。この神秘ははじめて明かしたのが、マルコ・ポーロ。『東方見聞録』には、インド藍による染め方が正確に、詳述されている。もっとも当時に人びとはマルコ・ポーロ説をまったく信じなかったのであるが。

実は「インディカン」を含む草はヨーロッパにも自生していた。ひとつの例が、ウォード woadである。ふつう、「ホソバタイセイ」と訳されることが多い。ウォードもまた「インディカン」を含むのだが、インド藍とは比較にならない。ウォードよりも、インド藍を使った方がはるかに美しい、堅牢度の高い青となる。

そのために中世においてはウォード対インド藍の戦いが長く続く。多くのヨーロッパの国々では、インド藍の使用が禁止された。染色業者はこの禁止令に反してまで、インド藍を使うことさえあったのだが。

1598年のフランスでも、インド藍禁止令が出されている。何度も。なぜならこの禁止令はなかなか守られることがなかったからだ。このインド藍への崇拝ぶりを逆手にとって、民衆の人気を得ようとしたのが、コルベールであった。1669年にコルベールはインド藍緩和策に出る。こうしてゆっくりとインド藍の使用が拡がってゆくのである。

「ジーンズを染めている青、紺青。これはインディゴ・ブルーだが、アメリカの開拓時代にはどういうものか、これが毒蛇よけや虫よけに効果があると信じられていたらしい。」

開高 健著『生物としての静物』の一節。「インディゴ・ブルーの秀作、ジーンズ」と題してそのように書いている。

インディゴ・ブルーは、永遠に美しさを放つ青である。

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