ランタンとラウンジ・スーツ

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ランタンは、角灯のことですよね。まわりをガラスで囲ってあって、中で炎が燃えていて。昔の灯取り。照明器具。たいていは手で持つ式ですが、時には軒先に吊るして置いたりも。
文学の上では、「ランタン・ランド」というのがあるらしくて。「提灯国」。
ラブレエの『パンタグリュエル』に出てくる話で。勉強ばかりしている学者たちを皮肉った用語だったらしいのですが。夜になってもランタンを灯して学んだ、ということからきているのでしょうか。
ランタンが出てくる小説に、『水の上の会話』があります。阿川弘之が、昭和四十三年に発表した物語。

「いつか発電機が故障して船内停電の騒ぎがおこった時、船首の倉庫から西洋骨董店にありそうなランタンが持ち出された事がある。」

これは「賀茂川丸」という貨物船が背景になっているので、停電になるとランタンが出てくるのでしょう。
阿川弘之が終生、師と仰いだのが、志賀直哉。当然のように『志賀直哉』の作品もあって。この中に。

「………彼が毎夜勉強机の明りとして使つたのはランプ、もしかしたら行灯だつたのではないかと思はれる。」

このでの「彼」は、夏目漱石のこと。志賀直哉が師と考えていたのが、漱石だったので。
時代は、明治十六年。志賀直哉が生まれた時から文章ははじまるのです。

「マクレイは馬車のランタンの輪舞のかすかな光をたよりに彼女を見た。」

ジョン・ディクスン・カーが、1968年に発表した『ヴードゥの悪魔』にもランタンが出てきます。もっともこの小説の時代背景は、十九世紀後半におかれていますから、当然でもあるのですが。
カーの『ヴードゥーの悪魔』には、こんな文章も出てきます。

 「上着が短い新式のラウンジスーツに、縁がそりかえった新式の山高帽をかぶっている。」

これは船の甲板に立っている若者の様子。
ラウンジ・スーツは、1840年代の「ラウンジ・ジャケット」の後身、発展型で、
上着、チョッキ、ズボンの三点を同じ生地で仕立てる、斬新この上ない服装だったのです。
『ヴードゥーの悪魔』にも描かれているように、最初は、若い、先端的な男に限って着用されたものであります。
どなたか1860年代のラウンジ・スーツを仕立てて頂けませんでしょうか。

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