シャンパンとシャルムーズ

シャンパンは、シャンパーニュのことですよね。
champagne と書いて「シャンパーニュ」と訓みます。
フランスのシャンパーニュ地方で造られる発泡性白ワインなので。
フランス語では時に「シャンプ」と省略されることもあるんだとか。
シャンパンは二、三人で飲む食前酒にふさわしい。一度壜を開けたなら、保存しにくいワインなので。
ただ、シャンパンは愉しい会話を拡げてくれる特効薬でもあります。
シャンパンが出てくる小説に、『山師トマ』があります。フランスの作家、ジャン・コクトオが、1922年に発表した短篇。

「公爵夫人は、街路に撒き散らされたシャンパン酒の瓶や、椅子や、自動ピアノなどから、われわれの驚くべき革命的な勝利を見抜いたのである。」

そんな一節が出てきます。
ジャン・コクトオは昭和六年に日本に立ち寄っています。その時、案内役を務めたのが、堀口大學。
堀口大學は当然のように、歌舞伎にも案内しています。
この時、舞台には『鏡獅子』がかかっていて。それを演じるのが、六代目菊五郎。
芝居が終った後、コクトオは菊五郎の楽屋へ。報道陣はコクトオと菊五郎との握手の場面が撮りたい。
事実、コクトオと菊五郎の握手の様子は写真に遺っているのですが。

「私はキャメラに向って、ただ彼と握手している真似をするだけにして、彼の手にふれることをやめたのです。」

コクトオは後にそのように語っています。ここに「彼」とあるのが、菊五郎であるのは言うまでもないでしょう。
コクトオは菊五郎の手の化粧に、気を配ってのことだったのですね。
コクトオの『山師トマ』を読んでおりますと、こんな会話が出てきます。

「あたしの好きなものは、着物ならシャルムーズ、」

これは、ド・ボルム公爵夫人の言葉として。
「シャルムーズ」charmeuse はサテンの一種。柔らかく仕上げたサテン。
「シャルムーズ」は、「誘惑されるもの」の意味としても理解できるでしょう。
どなたかシャルムーズのシャツを仕立てて頂けませんでしょうか。