マッキノー(mackinaw)

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森隣外套

マッキノーはアメリカで生まれ、アメリカで育まれた、アメリカならではのコートである。
マッキノーは常にダブル前で、ショール・カラーと、共ベルトが付くことが多い。また、大胆な格子柄であるのも、特徴のひとつ。たいてい大きなポケットと、マフ・ポケットとが添えられる。ただし着丈は、フィンガーティップ・レングスである。
時に、「マッキノー・コート」とか、「マッキノー・ジャケット」、さらには「マッキノー・クルーザー」の名前で呼ばれることもある。ただし今、いくつかの辞書に当たったところでは、「マッキノー」がやや優勢であった。
マッキノーを調べていて、すぐ下に「マッキントッシュ」があることにも気づかされる。マッキントッシュはイギリスに生まれ、イギリスに育っった、イギリス的なコートであることは言うまでもない。
マッキノー・コートのすぐ上にあるのが、「マッキノー・ボート」。これは比較的軽量で、底の平たい小舟のこと。マッキノー・ボートも、マッキノー・コートも同じ場所から出ている。ただ、年代としては、マッキノー・ボートが先である。
アメリカのファッション用語を探すのに役立ってくれるのが、マリー・ブルックス・ピッケン著『服飾辞典』である。これを開いてみると、次のような言葉が並んでいる。
「マッキノー」
「マッキノー・クロス」
「マッキノー・ハット」
そしてここでの発音は、「マッキナウ」に近いのだ。それはともかく、まず最初に「マッキノー・クロス」があったことは間違いない。そして、マッキノー・クロスこそ、「マッキノー・ブランケット」であったのだ。
では、マッキノー・ブランケットとは何か。
マッキノー Mackinaw はやがてカナダに近い、ミシガン州の地名である。マッキノーはまた、五大湖にも接している。五大湖が、スペリオル湖、ミシガン湖、ヒューロン湖、オンタリオ湖を指していることはもちろんである。
マッキノーはもと、トレイディング・ポストのあった場所。交易所のことである。この場所において白人とネイティヴ・アメリカンとの交易が許された。それは具体的には物々交換で、白人が主に求めたのは毛皮であった。毛皮は都会に持って行けば、高い値で売れたからである。
そして毛皮との交換に与えたのが、ブランケットであった。
ネイティヴ・アメリカンはそのブランケットを、直接身に纏うこともあったという。もしそうだとするなら、ネイティヴ・アメリカンのこの「着るブランケット」が、マッキノーのヒントになった可能性もある。
「マッキノー・ブランケット」の言葉は、遅くとも1820年代に用いられていたようである。ただし外套を意味する「マッキノー」は、1830年代に入ってからのことと思われる。
1836年刊『マサチューセッツ史』の中に、「グリーン・マッキノー」と出てくる。これは外套を指しての比較的はやい例であろう。
マッキノー・ブランケットから今のマッキノーが生まれていることは間違いないが、そのブランケットは主にイギリスからの輸入品であったとのことである。つまりマッキノーひとつにも、ネイティヴ・アメリカンをはじめ、多くの知恵が結集された結果であったものと思われる。

「彼らは全員、ヘヴィなブランケット・マッキノー・コートを着、ラバー・シューズに合わせてジャーマン・ソックスを履いていた。」

ホワイト著『ブレイズド・トレイル』( 1902年 ) には、そのように出ている。当時は、「ブランケット・マッキノー・コート」の表現もあったのだろうか。少し話は戻るのだが、十九世紀末のマッキノーには、フード付きのスタイルもあったようだ。これらのことを考え合わせるに、今日のマッキノーがスタイルとして完成されるのは、やはり二十世紀に入ってからのことと思われる。

「彼、充分な保温性のある服装である、色褪せたマッキノーを着た男に、行く手を遮られた。

ジャック・ロンドン著『雪の娘』 ( 1902年 ) の一節。ここでも単に「マッキノー」と書かれている。

「彼は、赤いマッキノーを着ることを、諦めた。」

シンクレア・ルイス著『メイン・ストリート』 ( 1920年 ) に出てくる一文。たしかに「赤い」マッキノーは、珍しくないものだ。これもまた、毛布であったことと無関係ではない。

「その若者の頭と耳は、マッキノーの襟で包まれていた。」

ジョン・ドス・パソス著『四十二番目の平行線』( 1930年 ) には、そんな一行が出てくる。以上はほんの一例で、アメリカの小説に登場する「マッキノー」は、枚挙に暇がない。それほどに生活に密着したコートなのであろう。

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