テイラーとトレンチ

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テイラーは仕立屋のことですよね。
英語に、「九人の仕立屋で一人前」。そんな言い方があるんだとか。「ナイン・テイラーズ・メイク・ア・マン」。これはどんなふうに理解すればいいんでしょうね。私は勝手に。「ちゃんとした服を仕立てるには、九人の職人が必要」と考えているんですが。
その一方で、「ザ・テイラー・メイクス・ア・マン」。これは日本での「馬子にも衣裳」に似た表現なんだとか。これは本当だと思います。テイラーを選ぶことは、とても大切なことです。
NYに、「ウェラー・ファブレー」という名のテイラーがあって。もっとも小説に出てくるテイラーですから、フィクションですよ。ただ、「ウェラー・ファブレー」にもモデルがあったと思うのですが。
ミッキー・スピレーンが、1972年に発表した『エレクション・セット』に出てきます。

「ピンと張った口髭をたくわえ、きちんとモーニングを着た、英国紳士が慇懃にうなずき……」

これが「ウェラー・ファブレー」の店主。物語の主人公、ダジロン・ケリーが、親友のリー・シェイの紹介で、テイラーを訪れた場面なんですね。
「ウェラー・ファブレー」は敷居が高く、紹介がなくては、服を作ってくれない。紹介があっても上品な客でないと、仕立ててくれない。店が客を選ぶようになっています。主人公、ダジロンは、このテストに合格したらしい。で、ダジロンは店主に、言う。

「私の寸法はロンドンのベタートン・アンド・シュトラウスにファイルされている。」

これをまったく癖のないフランス語で。そして小切手で前金を払う。「ベタートン・アンド・シュトラウス」もたぶん仮名でしょうね。ところで、ダジロンはどんなコートを着ているのか。

「また、雨になりそうな気配だった。私はトレンチ・コートを着てきたことを喜んだ。」

これはダジロンの呟き。
トレンチ・コートをテイラーで仕立ててもらう。そんな贅沢なこと、できるんでしょうか。

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