林檎を読んだ詩に、『初恋』がありますよね。もちろん、島崎藤村の。
やさしく白きてをのべて
林檎をわれにあたへしは
島崎藤村の『初恋』には、三回ほど「林檎」が出てきます。赤い林檎と白い手。どうしても美しい少女を想ってしまいます。
島崎藤村は今の、岐阜県中津川市の生まれ。たぶん小さい頃から林檎の木を見て、育ったんでしょう。『初恋』以外にもよく、林檎の話が出てきますから。
大正二年に。島崎藤村がパリに遊学するのは、よく知られています。藤村、四十一歳の時に。
神戸から船に乗ったのは、4月13日の夜。フランス客船「エルネスト・シモン号」の客として。
マルセイユに着いたのが、5月20日のこと。マルセイユから、リヨンへ。リヨンからパリへ。パリ、リヨン駅に着いたのが、5月23日の朝。
リヨン駅から宿までは、馬車。宿は、ポール・ロワイヤルにあったんだそうですね。
「晴雨兼帯とも言ひたい馬丁の冠つた高帽子の黒い光迄私にはめづらしい物でした。」
島崎藤村著『巴里の旅窓にて』には、そんな風に書いています。「高帽子」はトップ・ハットでしょうか。御者のための、雨にも強い「高帽子」があったのかも知れませんね。
雨にも強い帽子といえば、ボウラーがあります。山高帽。山高帽は、フランスでは林檎ではなく、「メロン」と呼ぶのですが。もちろんメロンを半分に切った形に似ているからです。