ハメットとモアレ

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ハメットで、探偵で、サンフランシスコで。こうなれば、ダシール・ハメットでしょう。
ダシール・ハメット。とても昔に活躍した人。そんな印象があるかも知れませんね。でも、ハメットは1961年までは、生きていたのです。1961年1月10日。午後7時、永眠。六十六年の人生だったことになります。
1月12日。マディスン街で、葬儀。この時の参列者、ざっと三百人ほどだったという。この参列者の中に、ベネット・サーフや、レナード・バーンスタインも含まれていたそうですね。
『マルタの鷹』をはじめとして、ハメットの物語は多くの人から愛読された。それと同時に、ハメット自身も愛すべき人物だった。そのために多くの伝記が書かれてもいます。たとえば、ウイリアム・F・ノーラン著『ダシール・ハメット伝』もそのひとつです。

「ダブルのダーク・スーツにくるまれた長身は剣のように細く、やわらかなフェルト帽をかぶり、靴はピカピカに光り、上衣の胸ポケットからはさりげなく折りたたんだハンカチがのぞいている。」

ウイリアム・F・ノーランは、そんなふうに書きはじめています。ハメットの伝記を、まずその着こなしから説きはじめるのも、ひとつの方法でしょう。ハメットのスタイルは、それほどに際立っていたようです。
ハメットが敬愛されるもうひとつの理由。それは実際に、私立探偵としての経験があること。ハメットは尾行について、こんなことを言っています。

「尾行のコツは、相手の靴を見ること」

なるほど。靴はそう簡単には履き換えませんからね。
ダシール・ハメット愛好家のひとりに、ジョー・ゴアズが。ジョー・ゴアズが1986年に発表した物語に、『裏切りの朝』が。この中に。

「ミッドナイト・ブルーの三つ揃いスーツに、淡いブルーに同系色の縦縞が入ったシャツ。波紋のついた絹ネクタイには………」

これはタップス・ターナーという人物の着こなし。「波紋のついた」は、たぶんモアレのことでしょう。生地の表面に木目模様があらわれたネクタイ地。もちろん、女性のドレスが作られたりも。
モアレ moiré は、一度織りあげた後に、特別のローラーをかける。そのことによってあの、波目模様が生まれるのです。

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