上布という言葉がありますよね。もちろん、「じょうふ」と訓みます。もともとは夏向きの、和服地。
上等の布なので、「上布」。うそみたいですが、ほんとうの話。上布の材料は、麻。麻は麻でも、苧麻。昔の日本では、苧麻は多く自生していたから。ただし、すべてが、手作業。ことに麻から糸に引きだすのが、難であったようですね。
よく「絹麻上布」などとも呼ばれることがあります。が、絹そのものではありません。苧麻を織り上げ、叩いて叩いて、絹ほどの光沢を与えた布地。この、叩いて叩いて仕上げることを昔は、「砧」と言ったのです。砧を打つとも。今も、「砧」の 地名があります。おそらくは砧の音が響く静か土地柄だったのでしょうね。
上布は日本各地にあったものです。ことに越後上布は有名でしょう。あるいは、薩摩上布。場所によっては、宮古上布とか、八重山上布と呼ばれることもあります。
薩摩上布は、仕上げに、松の葉を。松の葉を煮て、液を作り、それに浸しては、砧を打つ。と、生地の奥から怪しくも美しい光沢があらわれるのです。
京都で、薩摩上布を買った人に、小林秀雄がいます。もちろん、戦前のことですが。
「京都の五條筋の古着屋を軒並み物色し、薩摩上布を買つた。」
『島木君の思ひ出』と題する随筆に、そのように書いています。この時の小林秀雄は、島木健作と一緒だったからです。島木健作の代表作に、『生活の探求』があります。この中に。
「コール天のズボンにジャンパーを着た、二十三四の若者である。」
ジャンパー jumper は、イギリス英語では、スェーターのことになります。いや、スェーターとは限りませんが。とにかく着丈の短い、ニット・ウエアは多く「ジャンパー」と呼ぶことが多いものです。
そうか、一度、上布でジャンパーを作ってみましょうか。