発声映画という言い方がむかしはあったんだそうですね。「発声映画」の前は、「無声映画」。無声映画だからこそ、活動弁士がいたわけです。略して、「活弁」と言ったものです。徳川無声をはじめ、活弁から演劇の世界に入った人も少なくはなかったでしょう。
発声映画はまた「トーキー」とも呼ばれたものですね。比較的はやい時代のトーキーに、『モロッコ』があります。1930年の、パラマウント映画。若き日のゲイリー・クーパーと、人気絶頂のマルレーネ・ディートリッヒの共演ですから、沸きに沸いた映画であります。事実、マルレーネ・ディートリッヒは『モロッコ』で、主演女優賞を得ています。
1931年2月、『モロッコ』を銀座、「邦楽座」で観たのが、寺田寅彦。
「 「モロッコ」という発声映画を見た。まず一匹の驢馬が出現する。熱帯の白日に照らされた道路のはるか向こうから兵隊のラッパと太鼓の音が聞こえてくる。」
寺田寅彦は『映画雑感』と題して、昭和六年『文藝春秋』五月号に書いています。余談ではありますが、『モロッコ』は日本ではじめての字幕スーパーの映画だったという。
ゲイリー・クーパーは外人部隊の兵士の役。当然、軍服姿。軍帽をかぶって、頸の後ろに日除け布を垂らしています。あの「日除け布」のことを、ハヴロック havelock 。
その昔、英國の軍人、ヘンリー・ハヴロックが考案したので、その名前があります。十九世紀はじめのこと。
さて、ハヴロックのついた帽子をかぶって、発声映画を観に行くといたしましょうか。