杖は、ステッキのことですよね。たぶん、こんなナゾナゾを聞いたことがおありでしょう。
「はじめ四本足で、やがて二本足になり、最後に三本足になるものなーに?」
答えは、人。人は赤ちゃんの時、ハイハイするので四本足。大人になって、二本足。老いてくると杖を頼りに。
杖は、「つえ」とも、「じょう」とも訓みます。たとえば、儀仗兵とか。美々しい、立派な杖で正装する兵のことですね。これはまったくの装飾品。
杖は、英語で、ウォーキング・スティック。このスティックから日本語のステッキが生まれたのでしょう。
歩行用のステッキの握りに、よく鳩の姿が描かれます。鳩はトクトクトクと歩く。でも、決して転びはしない。鳩は転ばない。で、転ばないためのお守りに、鳩の姿を刻むわけですね。
杖が出てくる小説に、『文づかひ』があります。明治二十四年に、森 鷗外が発表した短篇。
「式部官が突く金総のついたる杖、「パルケット」の板に触れて……………」。
これは十九世紀、ドイツでの様子。『文づかひ』には、こんな描写も出てきます。
「その傍に馬立てたる白髪の翁の角ボタンどめにせし緑の猟人服に、うすき褐いろの帽を戴けるのみなれど、何となく由ありげに見ゆ。」
さすがに名文のお手本ですよね。いや、『文づかひ』そのものが、名文の宝庫なのですが。
「角ボタン」は、ホーン・ボタンのことでしょう。ハンテ イング・ジャケットの前ボタンが、ホーン・ボタンになっているわけです。
むかしのスーツなども多くは、ホーン・ボタンだったものです。たいていは、水牛の角ボタン。
さて、ホーン・ボタンのスーツを着て、美事なステッキを携えたいものではありますが。