ジョッキとシュミーズ

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ジョッキは、ビールを飲む時に使いますよね。小さなグラスで飲むのか、大きなジョッキで飲むのか。これまた、好みというものでしょう。
談論風発、ゆっくりとビールを愉しむには、ジョッキが向いているのかも知れません。また、ひとくちでキュッと流しこむには小さなグラスが良いのでしょう。
「ジョッキ」は、特別な言葉ではありません。が、その綴りを書けと言われると、はたと困ってしまいます。「ジョッキ」の英語は見当たりません。「ジョッキ」はどうも和製英語のようですね。
英語に、「ジャグ」 jug があります。これは大型の水差しのこと。でも、ビール用ではなくて。ビールならむしろ「マグ」mug でしょうか。ビア・マグと言うではありませんか。
それはともかく、この「ジャグ」を耳で聴いて、「ジョッキ」が生まれたものと思われます。
「ジョッキ」が出てくる小説に、『紋章』があります。『紋章』は、昭和九年に、横光利一が書いた物語。この中に。

「代りのジヨツキを命じようとして女を捜した。」

これは、善作という人物の様子。当時、銀座にあった、「エビスビール本店」の、ビアホールで、ビールを飲んでいる場面。相手は友人の「久内」で、久内はジョッキではなく、「コツプ」で飲んでいるらしい。
それはともかく、昭和九年にはすでに「ジョッキ」の言葉が用いられていたのでしょう。もっともそのはじまりは、明治のことなのでしょうが。
ジョッキが出てくるミステリに、『メグレと無愛想な刑事」があります。ジョルジュ・シムノンが、1947年に発表した物語。

「彼はドーフィーヌ・ビヤホールのサンドウイッチひと皿とジョッキ三杯を取り寄せたのだ。」

「彼」が、メグレであるのは言うまでもないでしょう。それにしても、サンドウイッチひと皿に、ジョッキ三杯は多いのではないでしょうか。
事件のあった季節は夏で、ことに巴里としては暑い日だったのです。そんなわけで。
この時のメグレ警部、珍しくシャツ一枚の姿。それほどに、暑い日だったのです。
シャツは、フランスでは「シュミーズ」。シャツでさえあれば、男でも女でも「シュミーズ」。ひと時代前の日本での「シュミーズ」は、今のスリップを意味したものですが。これも厳密には和製語だったのかも知れませんね。
まあ、そんなことはさておき。シュミーズ一枚になって、大きなジョッキでビールを干したいものですね。

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