小さな葡萄ってありますよね。たとえば、甲州葡萄だとか。甘くて、食べやすい。もちろんその一方で、巨峰なども。
葡萄からワインが生まれのは、常識でしょう。が、葡萄よりもワインがお好きなお方もあって。たまたま客人があったので、瑞々しい、美事な葡萄の房をお出しした。と、その紳士、こうおっしゃった。
「丸薬は好みませんので、どうぞ絞り汁のほうをお出しください。」
小さな葡萄が出てくる小説に、『青い小さな葡萄』があります。遠藤周作が、1956年に発表した物語。
「それは青い小さな葡萄だった。、マスキュイ葡萄に似ているがそれよりもずっと小さくハンツの太い指の下で今にも碧い水滴となってこぼれそうだった。」
この物語の背景は、リヨン。リヨン駅に隣接するカフェでの話。「ハンツ」はドイツ人の客という設定。
「青い小さな葡萄」は、ヴァルツという品種で、フランスのアルデッシュに産する葡萄なんだとか。主に、食用葡萄であるらしいのですが。
遠藤周作が、この翌年に書いたのが、『海と毒薬』。遠藤周作の代表作のひとつでしょう。
「残暑の陽が流れこむ二階の病室で縮みのシャツとステテコを着て横になっていた彼の姿です。」
もちろん、『海と毒薬』の一節。縮み織を略して、「縮み」。たしかにシャツにもなりますが、上等の縮みもあります。ひとつの例を挙げるなら、「小千谷縮み」。着物地ではありますが、洋服に仕立てられないものでもありません。
なにか縮みの服を着て、小さな葡萄を食べに行きたいものですが。