靴屋とグレイ・トッパー

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靴屋は、靴がたくさん並んでいる店のことですよね。英語なら、シュー・ショップでしょうか。
靴屋の意味も広くて。個人の靴を作る小さな店も、「靴屋」。靴は作らないけれど、大きな靴の販売所も、「靴屋」。なかなか難しいものがあります。

「彼は、うす明りの下で、靴の裏に鋲を打ちながら……………………。」

大正七年に、小川未明が発表した『靴屋の主人』の一節に、そのように出ています。これは個人の、小さな靴屋のことですね。
靴屋が出てくる小説に、『浮城物語』があります。『浮城物語』は、明治二十三年に、
矢野龍渓が発表した物語。この中に。

「………以後は沓師に命して沓の底皮を厚くし且つ沓の踵を高くせしめんと……………………。」

これは文中の「立花綜理」の話。異國人に、「日本人は背が低いなあ」と言われたことがあるので、それからというものは、靴屋と相談してひと工夫を凝らしているわけですね。
矢野龍渓は、「沓師」と書いて、「くつや」のルビをふっています。明治二十年代には、
「沓師」の表現があったものと思われます。
「立花綜理」は、どんな服装なのか。

「………黑羅紗の正服を被り、下には白色薄羅紗のズボンを穿つ、上衣は襟頸より胸板に至るまで細微金線を以つて堆く繡ひ上げたる唐草黑地の……………………。」

とにかくこれ以上はないほどの「正服」が、延々と描写されるのですが。これなどを読んでいますと、「盛装」には際限がないこと、よく分かりますますね。
靴屋が出てくる小説に、『靴屋と悪魔』があります。ロシアの、チェホフが、1888年
『ペテルブルク新聞』12月25日号に発表した短篇。

「彼は仕上げた靴を赤いプラトークにくるむと、服を着かえて、外に出た。」

これは、フョードル・ニロフという靴屋の様子。自分で革を仕入れて、靴を仕上げるわけですから、靴屋以外の何者でもありません。でも、なかなか代金が頂けなくて。
チェホフが、1885年5月に発表した物語に、『財布』がありまして。これは、
5,445ルーブルの大金を拾う話。

「シルクハットとオペラハットを買うんだ。伊達者にゃ灰色のシルクハットがいるな。」

これは「バラバイキン」の科白。
「灰色のシルクハット」は、「グレイ・トッパー」gr ey t opp er のことでしょうか。
どなたか現代版のグレイ・トッパーを作って頂けませんでしょうか。

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