ウオトカは、火酒のことですよね。
古い時代の日本では、「火酒」とも言ったらしい。ウオトカに火をつけると燃えるからですね。つまり、アルコホル度数が高いので。
アルコホル度数が高いということは、殺菌剤にもなるわけであります。昔のロシアの女の人は、ウオトカを肌の引き締め化粧品としても使ったとのことです。
また、風邪薬にも。グラスに黒胡椒を散らして置いて、上からウオトカを。これを飲みますと、風邪が治ったんだとか。まあ、故き佳き時代のロシア人にとっては、万能薬でもあったようですね。
ところで「ウオトカ」なのか、「ウォッカ」なのか。英語の綴りでは、v odk a 。これと関係があるのかないのか、「ヴォートカ」と呼ばれた時代もあったらしい。
でも、「ウォッカ」が近いようです。明治期の日本の文士は、「撥音」をほとんど気にしなかった。で、実際には「ウォッカ」のところを、「ウオトカ」と書いた。で、これを誤って、「ウオトカ」になったと説があります。
明治の頃といえば、ロシア文学が流行った時代でもあって。ロシア文学を読むと、まず例外なく「ウオトカ」が出てきて。ここから日本の文士にウオトカが流行るようになったのかも知れませんね。
「その時私も静かに女を呼んで一杯のウオツカを求める。この晝の暑さに無色透明なウオツカが小さなリキユグラスを透かして冷たい漣を立てる。」
大正二年に、北原白秋が発表した詩集『桐の花』にも、ウオトカが出てきます。ただし、
北原白秋は、「ウオツカ」と書いているのですが。たぶん北原白秋も、ウオトカに親しんだお一人だったでしょう。
「………丁度その頃、篠原と友成は富士見軒でウオツカを飲んでゐたのである。」
昭和十一年に、高見 順が書いた『故舊忘れ得べき』の一節にも、「ウオツカ」と出てきます。
「それは、久し振りに引掛けたヲートカの醉ひで、草の上にうたた寝した彼を……………………。」
昭和二十三年に、小林秀雄が発表した『「罪と罰」について』にもウオトカが登場します。ただし小林秀雄は、「ヲートカ」と表記しています。おそらくは、ウオトカのことかと思われるのですが。
ウオトカが出てくるロシアの小説に、『奇跡』があります。ロシアの作家、リュドミラ・
ペトルシェフスカヤが書いた短篇。
「ナージャはなみなみとウォッカを注いだグラスを寝ている人の口元に持っていった。」
「コルニールおじさん」に。コルニールおじさんは、そのウオトカをひと口で飲み干すのですが。
ペトルシェフスカヤの短篇には、『父』もあります。この中に。
「………長靴とコートと毛皮帽を脱ぎ、まわりを見回した。」
ロシアの冬に「毛皮帽」は不可欠でしょう。ロシアの毛皮帽の代表は、「ウシェンカ」でしょう。なんでもないスタイルに見えて、その実、寒さに合わせて応用の聞く優れた帽子なのです。
どなたか純白のウシェンカを作って頂けませんでしょうか。