揃いと袖ボタン

Share on FacebookTweet about this on TwitterShare on Google+Email this to someone

揃いは、何かと何かが対になっていることですよね。たとえば、「揃いの浴衣」なんてことを言うではありませんか。
戦前までの浴衣はよく仲間同士で揃いで仕立てることが、少なくなかったんだそうですね。
もちろん「揃い」はなにも浴衣に限ってのことではありませんが。
英語なら「スート」s u it e でしょうか。このスートにも「揃い」の意味があります。また、
「スーツ」s u it とも大いに関係があります。

「揃い」が出てくる小説に、『そめちがへ』あるのは、ご存じのことでしょう。明治三十年に、森 鷗外が発表した物語。

「………これは小花と揃とは言い兼ねてか口籠る愛らしさ……………。」

これは、「清さん」という男が、 煙管入れの柄を問われる場面。

「おや清さんの煙管も伊勢新なのねえ……………。」と当てられて。「伊勢新」は当時あった、有名な袋物屋。今の銀座六丁目あった店なんだそうですが。

森 鷗外の『そめちがへ』を読んでおりますと。

「先刻お仕舞して居るとき二階の笑声を……………。」

と、出てきます。この「お仕舞」はその頃の女言葉。今の「メイク」のことを意味したんだそうですね。

「………此間兄さんとお揃ひに誂へたばかりの長襦袢の袖をも絞る程にしてしまつた。」

大正六年に、永井荷風が発表した『腕くらべ』の一節にも、そのように出ています。いうまでもなく女の人が泣いている場面で。
永井荷風の『腕くらべ』を眺めていますと、こんな描写も出てきます。

「………二字を赤絲で縫はせたは大方浜町平野屋の品であらう。」

明治期も大正期も、見る人が見れば、ある程度どこの品かが分かったのでしょうね。

揃いの服が出てくる物語に、『シャムロック・ティー』があります。2001年に、アイルランドの作家、キアラン・カーソンが発表した小説。

「叔父さんはツイードのスーツの上に、緑色の上等なウールの大外套をはおっていた。」

ここでの章題は、『おそろいの緑』になっているのですが。これは、「セレスティーン」という叔父さんの着こなし。
また、『シャムロック・ティー』には、袖ボタンの話も出てきます。

「五つボタンの袖口にこだわるのはウィーンの仕立屋だけですからねえ。」

これはシャーロック・ホームズの科白として。未知の客人、「ウィトゲンシュタイン」を、ホームズが、ウィーン人だと当てる場面。
なぜ、ウィトゲンシュタインが、ウィーン人だと推理したのか。彼の着ている上着の袖ボタンで。四個ではなく、五個になっていたので。
どなたか四個の袖ボタンのスーツを仕立てて頂けませんでしょうか。

Share on FacebookTweet about this on TwitterShare on Google+Email this to someone