麦湯と麻服

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麦湯というのが昔、あったんだそうですね。

「夏の夕方より町毎に麦湯といふ行燈を出し、往来へ腰懸の涼台をならべ、茶店を出すあり。これも近来のことにて昔はなかりけり。」

稲光舎 著『寛天見聞記』には、そんなふうに出ています。もちろん客は麦湯を飲む。そしてまたそれを給仕してくれる美しい少女を眺めるのも愉しみのひとつだったとか。

麦は麦でも、麦こがし。またの名前を、「はったい粉」。あれはどうも大麦だったみたいですね。大麦を粉にして、炒る。だから、「麦こがし」といったんでしょう。

麦こがしは粉ですから、これを湯で溶いて。で、そこに少し砂糖を入れたりして。これを食べるというか、飲むというか。

麦こがしが出てくるミステリに、『虎の潜む嶺』が。1996年に、ジャック・ヒギンズが発表した物語。

「その男がバターとツァンパ ( 麦焦がし )を練ったかたまりを体のどこかから出して、半分に割り、シャヴァスに勧めた。」

勧められたポール・シャヴァスは、英国情報部局長という設定。これは1962年のチベットが舞台なんですね。なるほど、麦こがしにバターという手もあるんでしょう。また、こんな場面もあります。

「シャヴァスが肝をつぶしてふりかえると、しわくちゃの砂色の麻のスーツを着たモンクリーフが立っていた。近衛連隊のネクタイを締め、灰色の髪はうしろになでつけている。」

イアン・モンクリーフもまた。イギリス情報部の一員。「砂色」。サンド・ベージュでしょうか。皺が美しく見える服。麻、リネン。

リネンのスーツで。冷たい麦茶にしておきましょうか。

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