ラジオに耳傾けるのは、愉しいものですね。
ラジオ番組のひとつに、「朗読の時間」があります。名作を耳で囁いてくれるのですから、これほどありがたいことはありません。
子どもの頃に夢中になったものに、『宮本武蔵』があります。吉川英治原作の『宮本武蔵』を、徳川夢声が朗読する番組。あの徳川夢声の『宮本武蔵』は、間違いなく芸術品でありました。「語り」は時に芸術品になることを知った最初でもありました。夢声の前に夢声なく、夢声の後に夢声なく。そんな印象さえありますね。
アメリカでラジオの朗読がはじまったのは、1922年のことなんだとか。もっともこれはラジオ・ドラマだったのですが。
ユージン・ウォルター原作の『狼』を、ふたりの俳優が演じた。それはエドワード・スミスと、ロザリン・グリーンだったと、伝えられています。1922年8月3日の、NYの、WGY局から。
このラジオ・ドラマで苦労したのは。科白を書いた紙。なるべくめくっても音のしない紙を選んだそうですね。
1943年のアメリカ、CBS局はミステリを放送しています。2月23日に。原作は、ジョン・ディクスン・カーの『客間へどうぞ』だったのです。
実はディクスン・カーは1940年代のはじめまではイギリスにいて。やはりBBC放送のために原作を提供していた。これが人気なので、軍の命令によってアメリカに呼び戻された結果だったのです。
ラジオ番組の『客間へどうぞ』を後に小説に書き直したのが、『死が二人をわかつまで』なんですね。『死が二人をわかつまで』の中に。
「白いリネンのスーツを着て、色のついたターバンを頭巻いている。」
これはハーヴェイ・ギルマン卿が占い師に扮している場面。白いリネンのスーツ。いいですねえ。