ミルクとデニム

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ミルクは、ごく身近な飲み物ですよね。朝食にもよく出てきます。たとえば、シリアルの上にかけてみたり。
むかし、飯にミルクをかけて食べる人がいたんだそうです。朝、起きると、飯にミルク。その人の名前は、新原敏三。新原敏三といってもぴんとはこないかも知れませんが。実は、芥川龍之介のお父さん。芥川龍之介のお父さんは、牛乳屋の店主。明治の、東京の牛乳屋としては、はやいほうだったらしい。
新原敏三の、飯にミルク。これは芥川比呂志著『ハムレット役者』に出てくる話ですから、ほんとうなんでしょう。芥川比呂志は、新原敏三の孫というわけですからね。
では、孫の芥川比呂志はどんな朝飯だったのか。

「起きぬけに、生の果汁を一杯。味噌汁、納豆、玉子、がんもどき、干物の類いで、米飯を二杯。」

『ハムレット役者』には、そんな風に書いています。『ハムレット役者』には、「タイツ」の話も出てきます。
ハムレット役者、芥川比呂志としては、黒いタイツを穿いて舞台に立つ。タイツの上に剣を吊っていて。それで役を演じるわけですから、タイツに穴が開く。タイツに穴が開いては具合が悪いので、ある時、思いついて、同じタイツを二枚重ねて穿いた。
ある時、楽屋で、二枚重ねたタイツが目撃されて。ある人が、それを吹聴したものですから。芥川比呂志のタイツがずいぶん有名になって。二枚のタイツが四枚になり、ハ枚になって。

「 「君、ハムレットでタイツを十五枚穿いたんだつてね。わつはつは」 」

これは三島由紀夫が、芥川比呂志に対して言った言葉。三島由紀夫の「十五枚」は、まだましのほうで。ある時、徳川無声と対談したことがあって。

「 タイツを、このう、無数にお穿きになつたんだそうですな。うはつ。」

と言われてしまって。これ、ぜんぶ『ハムレット役者』に出ている通りの話なんですね。
三島由紀夫と、芥川比呂志は浅からぬつきあいがあって。昭和二十五年に、『邯鄲』で出会っています。三島由紀夫原作の『邯鄲』を、芥川比呂志の演出で公演しています。芥川比呂志は、三島由紀夫についてこんな風にも書いています。

「ボクシングのジムへ廻る時には、革ジャンパーにデニムのズボンを穿き……………」。

三島由紀夫は芝居の稽古に立会うとき、「デニムのズボン」のこともあったのでしょう。もちろん今の、ブルー・ジーンズ。
もっとも現在ではジーンズを「デニム」とも呼ぶわけで、ここにも時代の先取りがあったのかも知れませんが。
今日でも、「デニムでミルク」は、ごく自然な風景のひとつでありからね。

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