ケイスネスとケンダル

ケイスネスは、人の名前にもありますよね。
Cathness と書いて、「ケイスネス」と訓みます。
たとえば、シェイクスピアの『マクベス』に、ケイスネスが登場するのは、ご存じの通り。
『マクベス』の背景は、スコットランド。スコットランドの領主の一人が、「ケイスネス」という設定になっているのですね。
『マクベス』は、シェイクスピアの「四大悲劇」のひとつなんだそうですが。
『マクベス』がいつ、シェイクスピアによって書かれたのか。正確なところはよく分かってはいません。
ただ、1611年に「グローブ座」で初演されたことは、間違いないようです。ここから逆算いたしますと、1910年頃には完成していたのではないでしょうか。

「ダンシネーンの城を固めているようだ。」

これは『マクベス』第五幕、第二場での、ケイスネスの科白なのですが。
「要するに、「マクベス」劇の主題は不安にある。その點、シェイクスピア作品中、もつとも近代的な要素をもつてゐると言へよう。」
福田恆存は随筆『マクベス』の中で、そのように述べています。
福田恆存は『マクベス』の翻訳をも。この福田恆存訳の『マクベス』で、「マクベス」を演じたのが、芥川比呂志。

「五時、「薔薇と海賊」楽屋入り。メーキャップをしながら、北村和夫と「マクベス」の話。そっちへ身が入りすぎて、靴下をかえるのをあやうく忘れそうになる。」

芥川比呂志は、『マクベス日記』に、そのように書いてあります。これは昭和三十三年七月二十二日のところに。同じ日の『日記』に。

「福田さんから演出の意図について説明あり、「マクベス」が、生と死、勝利と絶望、観念と現実の絶えざる葛藤のドラマであることを強調される。」

ここでの「福田さん」が、福田恆存であるのは、言うまでもないでしょう。
この芥川比呂志の『マクベス』を観たひとりに、三島由紀夫がいます。

「芥川比呂志氏は、精神錯乱などといふものをすこしも感じさせずに我々をそこまで連れてゆく技量をもつてゐる。彼の熱演はここまでめざめてきたので私は俳優としての彼を信じることができるのである。」

三島由紀夫は随筆『芥川比呂志の「マクベス」』の中に、そのように書いてあります。
昭和三十三年十一月二十日頃、三島由紀夫は『マクベス』を観て。

ここに一冊の本があります。『シェイクスピア時代のイギリス生活百科』。2012年に、イアン・モーティマーが発表した辞典ふうの読物。この中に、「ケンダル織り」が出てきます。シェイクスピアの時代には「ケンダル織り」はごく一般的な布地だった、と。
「ケンダル」kendal は、現在ほとんど忘れられている生地。辛うじて、「ケンダル・グリーン」にその名前を遺しているくらい。
ケンダル・グリーンとは、「ケンダル」によく見られた深い緑色のこと。
ケンダル自体は今言うホームスパンに似たウール地。
イングランド北西部、カングリア州の「ケンダル」で織られた生地だったので、その名前があります。
どなたかケンダルを復活して頂けませんでしょうか。