ヴィネガーは、酢のことですよね。酢は飲むほどのものではありませんが、料理によってはなくては困るものです。
たとえば、「酢飯」というくらいで、酢のない鮨はまず考えられないでしょう。一説に、世界でもっとも多く料理に酢を用いるのは、日本人なんだそうですね。
「タネと飯と酢加減とは鮨の三拍子であつて、必ず揃はなければ食べられたものではない。」
昭和五年に、永瀬牙之輔が書いた『すし通』には、そのように出ています。さて、その鮨の食べ方なんですが。
「にぎりの手前の方を、指二本、大ぶりのにぎりずしであったならば、中指を軽くそえる。そうした意気で、よくつまんで左に傾ける。用意してある醤油にタネの一方をわずかにひたす。なるべくシャリに醤油をつけない。」
宮尾しげを著『すし物語』には、そのように書いてあるのですが。
宮尾しげをは、さらに続けて。
「シャリに醤油がわずかにひたって、一粒か二粒、ほろりと落ちる程度ににぎったのが、今は最上のにぎり方だといわれている。」
ここでもう一度、『すし通』に戻りましょう。
「ビネガー」について語っているので。
「葡萄酒を原料として作つたものが最上で、林檎酒、ビール等からも作られる。」
ヴィネガーが出てくる紀行文に、『イタリアのおもかげ』があります。1846年に、チャールズ・ディケンズが発表した文章。実際、ディケンズは家族とともに、1844年、イタリアを旅しています。ただし、巴里を出発点として。その頃は、巴里のオテル・ムーリスの前からイタリア行きの馬車が出ていたので。
巴里を出て、南下。リヨン、アヴィニョンを通って、ジェノヴァへ。まあ、のんびりした旅だったのでしょう。
「さらにヴィネガー入りデカンターのヴィネガー・ドレッシングをかけられた薄切りのキュウリ二本分を食べたあと…………………。」
これは旅の途中、フランス側の、「オテル・ド・レキュ・ドール」での食事の様子。
また、『イタリアのおもかげ』には、チョッキの話が出てきます。
「彼の小さな上着を後ろに投げ、星が一面にちりばめられている幅広いビロードのチョッキを見せて。」
これは旅で出会った、とあるフランス人の着こなし。「幅広い」とは、何の形容なのか。私は勝手に、襟幅のことではないかと、想像しています。
夜空の、満天の星のようなヴェスト。いいですねえ。
今度、プラネタリウムに行く時に、ぜひ着て行きたいものですね。